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こんな幸せがあるだろうか。沙良はにやつきを抑えることができず、必死に波折から顔を逸らして歩く。
食材を買うために、近所のスーパーに波折と二人で買い物にきていたのだ。しかも、私服を持っていない波折は今、沙良の服を借りて着ている。ちらりと視界に波折がはいるたびにきゅんとしてしまって、沙良は落ち着けなかった。
「ソースは……デミグラスでいいよね、って沙良、聞いているの」
「は、はい」
(新婚さんみたい)
材料をぽいぽいとカゴに入れてゆく波折を、沙良は感動しながらみつめていた。……しかしまあ、波折はだいぶ冷静だ。昨日は魔女のせいとはいえあれだけ沙良の前で乱れて、そして今朝は寝ぼけて甘えてきたりしたくせに。ちらちらとそのときのことを思い出しては赤面する沙良とはまるで違って、波折は一切の動揺をみせない。ずっとツンとすましたような表情をしている波折は、いったい自分のことをどう思っているのだろう。完全に波折のことを意識している沙良は、少しだけ残念に思っていた。
「あ、袋半分俺持ちます」
「ん、ありがとう」
「いや、重い方持ちますから!」
「重い方は俺」
「いや俺が」
「俺が先輩だから」
「後輩のほうがそういうことはやるべきです!」
レジで会計を終えて出口のあたりでどちらが重い袋を持つかで揉めていると、通りすがったおばあさんが微笑ましそうに笑っていた。沙良が恥ずかしくなってひったくるようにして波折から重い袋を奪えば、波折が不満そうに睨みつけてきた。
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