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「……お兄ちゃん顔どうしたの」
「へ?」
料理が完成して、テーブルに並べているとき。夕紀が沙良に怪訝な顔をしてそう尋ねた。そんなことを聞かれる心当たりが全くない沙良は、きょとんとすることしかできない。
「……顔……すっごいにやけてる」
「あっ!?」
指摘されて、沙良はぱしりと自分の頬を叩いた。
料理の最中、結局波折はずっと沙良のすぐ側にいた。時には密着もした。その嬉しさの余韻が残っていたんだ……と自分のにやけ面の原因に気付いた沙良は、慌てて真顔を取り繕う。三人分並べ終えて、波折がテーブルを挟んで自分の前に立ったとき……沙良は思わずかあっと顔を赤らめてしまった。
「は、はやく食べよう! 料理冷めないうちに!」
だらしのない顔を、波折に悟られたくない。沙良は慌ててそう叫ぶ。
いつも夕紀は沙良の向かい側に座るが、今日は隣に座った。沙良がちらりと夕紀の顔を覗き見ると、なにやらるんるんとしている。いただきますをすれば、さっそく夕紀はハンバーグを口に運んだ。
「……美味しい!」
満面の笑みでそう言った夕紀に、沙良は照れくさそうに笑う。波折に細かく指導を受けながらではあるが、自分がつくったもの。自分の料理を美味しいと言ってもらえて、なんだかものすごく嬉しかった。
「お兄ちゃん、これからもつくってよ!」
「えっ……えっとー」
にこにことしながら夕紀に頼まれて、沙良は口ごもる。つくってやりたいのは山々だが、一人で料理できるほど技術を会得していない。期待を込めた眼差しで見つめられて、断るにも断れなくて沙良が苦笑いをしていると、向かいに座っていた波折が仏頂面で言ってくる。
「つくってやれば」
「え、えー……でも俺、まだちゃんとつくる自信ないっていうか……」
波折に「そうですよねー!」と夕紀が同調してしまって、更に断りにくい。困ったように沙良が唸っていれば、波折がため息をついた。
「……また、教えてやるから」
「……え?」
「料理くらいできるようになって」
「えっと、……また、うちに来てくれるってこと……ですか!?」
「……夕紀ちゃんのためだから。おまえのためじゃない」
おおおお……なんて沙良が感動で震えていると、夕紀がぱっと立ち上がる。
「ほ、ほんとうですか! 波折さん、またきてくれるんですか!?」
「うん。夕紀ちゃんが嫌じゃなければ」
「と、とんでもない! 波折さんが来てくれるの、嬉しいです!」
夕紀は目をきらきらとさせて大声でそういう。頬がどことなく、赤い。よく考えれば波折は学園の王子様で何百人ものファンがいて、たぶん学園で一番モテる男で一番イケメンで。そんな年上のお兄さんが家に来てくれる、というのなら夕紀も嬉しいに違いない。……これは予想外のライバルだ、なんて沙良は考えてしまう。
「波折さんってお兄ちゃんの先輩なんですよね! っていうことは生徒会ですか?」
「うん、生徒会長」
「せ、生徒会長……! かっこいい……! えっ、JSの生徒会長ってことはJSで一番頭がいいってことですよね!」
「う、うーん、まあ、」
「すごい! 将来は裁判官確定ですね!」
「……そうだね」
ともかく、波折が家族と仲良くなってくれるのは嬉しい。沙良は冷凍食品よりもずっと美味しいハンバーグを口に運びながら、二人の会話を聞いていた。
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