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「……!」
ちか、と瞼の裏が紅くなって、波折は目を覚ます。瞼を開ければカーテンの隙間から眩い夕日が差し込んできていて、部屋の中を紅く染めている。その光景から、ずいぶんと寝ていた、ということを察した波折は時計を確認しようと首をひねるが――
「う、」
体が、動かせない。沙良の腕でがっちりとホールドされていて、体を反転させることができなかったのだ。腕をどかしてもいいが、そうすれば沙良が目を覚ましてしまう。起こすのはなんとなく悪いような気がして、波折はそのまま沙良の胸に顔をうずめた。
「……」
あんまり、沙良には好かれたくない。そう思うけれど。……こうしているのは、ひどく、心地良い。
(やっぱり人肌って気持ちいいな)
「……ん、」
「あ、」
そのとき、沙良がみじろいだ。顔をあげれば、沙良が瞼を薄く開けて自分をみている。なんとも満ち足りたような表情で笑って、「波折先輩、」と自分の名を呼ぶ。
「……10分で起こしてって言ったんだけど……」
「すみません……気持よくて俺も寝ちゃいました」
髪の毛に顔を埋めようとしてくる沙良を押し返し、波折は体を起こす。「なおりせんぱーい」と名残惜しそうに呼んでくる沙良を無視してソファから降りると、ベランダに出て行ってハンガーで干されている自分の制服の乾き具合を確かめた。昨夜、沙良が洗っていてくれたらしい。今日は天気もよかったからか、すっかり制服は乾いている。波折はハンガーから制服を外して部屋の中に持ってくると、沙良から借りて着ていた服を脱いだ。さっと制服を身にまとうと、借りていた服を畳んでテーブルの上に置く。
「俺、帰るね」
「えっ、晩御飯は」
「それまでおじゃまするのは悪いかなって」
「そんなことないですよ!」
「まあ、でも今日は帰る」
沙良は残念そうにふくれながら起き上がった。目に見えて落ち込んでいる沙良から、思わず波折は目をそらす。本当はもう少しいてもいいんだけど――それを、悟られるつもりはなかった。あんまり長居して、居心地の良さに味をしめてしまったら、きっと――
「波折先輩……また、来てくれますよね?」
「……夕紀ちゃんのためにね」
「……それでもいいです! また、一緒に御飯つくって、食べましょう!」
「……うん」
立ち上がった沙良が、こちらに向かってくる。背後の窓から差し込む真っ赤な夕日が眼球を焼くようだ。眩しくて眩しくて……波折は逃げるように、沙良に背を向けた。
「……今日は、ありがとう」
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