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気付けば、波折の足は食堂にむいていた。このまままた屋上に戻ればいいのに、と思いつつ来てしまったのである。
すでに昼休みが始まっていくらか時間の経った食堂は、多くの生徒でごった返していた。一面に生徒がいて、人探しなどできる状況ではない。波折を発見した生徒たちが色めき立って、食堂は更に騒がしくなる。
「……」
本当にここに沙良がいるのだろうか。ここまで目立つと、さすがに居心地が悪い。早くこの場を立ち去りたい気持ちに駆られながら必死に波折は沙良を探して――みつけた。
沙良が楽しそうに誰かと会話をしている。……何やら自分といるときよりも楽しそうだ。それは、考えてみればあたりまえだけれど。口が上手いわけでもない波折といるときよりも他のもっと話題に豊富な人と話していたほうが会話も弾むだろう。それは波折も納得できたが、少し面白くないと思った。でも、今から沙良のもとへ向かう気にもなれない。話を邪魔するわけにもいかないからだ。
「え――」
そのとき、沙良の側に座っていたグループが席を立つ。そうすれば、沙良の前に座っている人物の顔がはっきりと見えた。……そしてその瞬間、波折は固まった。
――女の子だった。沙良が一緒に食事をしているのは、女子生徒だったのだ。しかも、ふたりきり。
「……」
波折はすぐさま踵を返し、食堂を出て行った。なぜか、あの二人をみていたくなかった。相手が男子生徒だったなら、ここまでモヤモヤとすることはなかっただろう。なぜ自分がここまで嫌な気持ちでいっぱいになっているのかはわからなかったが、波折はこれだけははっきりと感じ取った。
――俺と沙良の間には、はっきりとした壁ができてしまった。
たったそれだけの、刃のような事実を。
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