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***  波折が一年の階を歩くと、やたらと目立った。すれ違う生徒たち皆が振り向いて騒ぎたて、騒ぎを聞きつけた生徒が集まってきて更に騒がしくなって。群がる生徒たちをかき分けながら、波折はなんとか沙良のクラスまで辿り着く。 「……っ」  やっとの思いで教室の前まできて、波折は怖気づいてしまった。自分から人を誘ったことがない。そして他のクラスにはいったこともほとんどない。全校生徒の前に立つよりもずっと緊張して、喉はからからになるし脚もすくむしで、なかなか波折は教室へ入っていくことができなかった。  やっぱり引き返そうかな、と波折は考え始めてしまう。こんな思いまでしてなぜ自分はここに来ているのだろう。沙良が離れていくことを自分は望んでいたじゃないか。そうだ、ここで引き返せば沙良とこのままただ生徒会が一緒なだけの他人のままでいられる。それでいい。そうなることを、望んでいたはず。 「冬廣先輩、どうされたんですか?」  波折が沙良の教室に背をむけようとしたとき。数人の女子生徒が波折に話しかけてきた。教室に入りづらそうにしている波折に気をきかせてくれたのだろう(8割は下心のように思われるが)。なんでもない、そう言おうと思ったが波折は咄嗟に尋ねてしまう。 「……神藤くんいるかなって……」 「神藤くんですか? ちょっと待っててください!」  沙良と話したいと思うがあまり、うっかり彼女たちに沙良を呼ぶように頼んでしまった。ああ、やってしまった、そう思ったがやっぱり沙良には会いたい。彼女たちが教室の中に戻っていく姿を見つめながら、波折はドキドキとして待機する。  しばらくすると彼女たちは戻ってきた。急いで確認してくれたのか、少々息を切らしている。 「神藤くん、教室にはいないんですけど、食堂にいるらしいですよ!」 ――食堂?  食堂ということは、誰かと一緒にいるということか。友人とでも一緒にいるのだろうか……と思って、波折のなかに安心したような寂しいような、複雑な気持ちがこみ上げてくる。とりあえず、もうここには用はない。波折は彼女たちにお礼を言うと、その場を去っていった。

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