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「……おかえり」
波折が家に帰ると、鑓水が静かに笑いながら迎えてくれた。なにやら苛々としているようにみえる。どうしたんだろう、と波折がそろそろと靴を脱いであがると、鑓水がずかずかと近づいてきた。
「……誰と一緒にいた」
「えっ……」
「……いいや。風呂沸かしておいたからすぐ入って」
「け、慧太」
鑓水はぐいぐいと波折を引っ張って、浴室に放り込んだ。バタンと扉を閉められて、波折はびっくりしてしまう。
「……慧太? 何か怒ってる?」
「べつに」
「……ほんと?」
「怒ってねぇよ、おまえには」
「……慧太、」
扉越しに、鑓水の低い声が聞こえる。そこにはいつもの甘さがなくて、怒りの色が。鑓水に嫌われることがとにかく怖くて波折は何度か彼の名を呼んだが……返事は返ってこない。
「慧太……俺、何かした?」
「……いいからさっさと風呂入ってその虫酸が走る臭い落としてこいよ」
「臭い……?」
それ以降、鑓水は何も答えてくれなかった。波折はびくびくとしながら、服を脱いでいく。下着を脱いだときに、ぬちゃ、と色んな液体が糸をひいた。「ご主人様」との熱いセックスを思い出して波折は身体の芯が震えるのを感じたが……それ以上は興奮できなかった。鑓水に捨てられてしまうのではないかという恐怖のほうが勝っていたのかもしれない。
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