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***  水族館まではバスを使っていくことができる。湿気でじっとりとしたバスに揺られて、少し遠い水族館までの道をゆく。 「波折先輩、昨日何をしていましたか?」 「んー? 慧太とデート」 「デート!? 鑓水先輩とも!? てっきり家の中にずっといたのかと……」 「楽しかったよー」  ふふ、と波折が笑う。くそー、可愛い顔しやがって。なんだか今日の波折からいつもよりもいい匂いがするのは幸せいっぱいだからだろうか。鑓水よりもうまく波折をエスコートする自信のない沙良は、ちょっぴりこれからのデートに不安を覚える。 「沙良」 「は、はい」 「沙良は水族館とかそういうの好きなの?」 「あ、はい。前もちょっと言ったんですけど、俺、趣味がちょっと周りと変わってるっていうか……水族館も好きだし、美術館とかそういうのも好きです」 「俺も好きだよ。静かだけど綺麗なところが好き」  そう言って波折はちらりと窓の外をみる。雨粒がぱちぱちとはじけている窓の外、どんよりと曇っている。しかし、波折はそんな雨模様の景色をみて笑う。 「……雨も好き」 「……雨も、」 「楽しみだね、沙良」  再び沙良に向き直って微笑んだ波折はきらきらとしていた。曇り空でどんよりとした景色が一気に鮮やかになったような錯覚を覚える。  ……鑓水に張り合っていることが、バカらしく思えた。波折とこれから過ごすというのに、何をそんなつまらないことを考えていたのだろうと。沙良はふ、と笑うと、こっそり波折の手を握る。きょと、とした波折がやがて穏やかに微笑んだのをみて、胸がきゅんとなった。

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