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バスに乗って、駅に向かう。その駅から沙良の家まで、少し歩く。
「先輩、今日も一緒にごはんつくりましょ」
「うん、上手くなっているんだっけ?」
「前よりも断然!」
「そっか、楽しみ」
途中、大きな橋がある。そこを通るときになんとなく下を流れる川をみてみたら、紅に染まっていた。空に夕焼けの紅が広がっていたのだ。絵画に描いたように美しい夕焼けに、思わず波折が立ち止まる。
「……まぶしい」
波折は目を細めながら夕日を見つめていた。今日の波折は、よく眩しいものをみつめる、そんな表情をしていた。目を細め、その瞳にきらきらを浮かべて。
「……先輩」
なんだかそんな波折をみていると切なくなった。沙良は波折の手を取る。ぴく、と自分の方へ視線を移した波折を、じっとみつめた。
「先輩……綺麗です」
「えっ……」
「綺麗です、先輩」
そして、ぐ、と唇を奪う。
空は、真っ赤に染まっていた。眩くて、自分たちを飲み込んでしまうほどのその光にどこか寂しさを感じてしまうのは、自分たちがその光に似つかわしくないと感じているからだろうか。周りに溢れる光たちから目を背けたくなるのは、自分を醜いと感じているからだろうか。美しすぎるものから、逃げたくなってしまう。でも、波折は綺麗だ。波折が自分をどう思っていようと……沙良にとって波折は、あまりにも、綺麗。
「沙良……」
唇を離すと波折がじっと沙良を見つめてきた。夕日に照らされ紅に染まった沙良の表情。いつもよりも大人っぽいそれ。自分をまっすぐに見つめる瞳。
「……眩しいね」
いつも、沙良には光がつきまとっていたと波折は目を閉じる。沙良はきらきらしている。彼との思い出は、心の中できらきらと小さく輝いている。ありふれた青春、ありふれた幸せ、そんな輝き。だからこそ特別で、大切なのかもしれない。
「……帰りましょうか、先輩」
沙良が波折の手を取って、歩き出す。からすの鳴き声が聞こえてくると、ああ、またありふれた光景だな、と波折は思った。
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