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*** 「お兄ちゃんお帰りなさい…!」  家に帰った瞬間、飛びつくようにして夕紀が玄関へ駆けてきた。続いて奥から洋之もでてくる。一体どうしたんだ、と沙良は一瞬たじろいだが、そうだ篠崎の件が報道されたのだろう。同じJSの生徒である沙良の身を、二人は案じていたのだ。沙良は駆け寄ってきた夕紀を軽く抱きしめて頭を撫でながら、洋之に声をかける。 「父さん、今日は早いんだね」 「例の事件があったからな。うちは親が俺一人だから、子供のためにも早くなるべく早く帰れって上司が」  近所で同じ高校の生徒が殺害されればそうなるだろう。夕紀もずいぶんと心配していたのか、半泣きで縋り付いてくる。  いっそ過剰なくらいの心配を受けながら、沙良は家の中にあがった。波折のことも、夕紀と洋之は手厚く歓迎してくれる。「家族」らしい沙良の家族をみて、波折はこっそりと困ったように笑った。沙良のことは、本当に汚してはいけない、そう思ったから。沙良と一緒にいられるのは、生徒会という接点のある、学生時代くらいかな、そう思って少しだけ寂しくなった。

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