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「ん……」
ふと波折が目を覚ますと、身体が布団に包まれていた。沙良は波折を抱きしめながら、すうすうと寝ている。あどけないその寝顔をみているときゅんとしてしまって、波折はみじろいだ。もぞもぞと手を沙良の背に回して、ぎゅっとすがりつく。
「……なおり、せんぱい?」
「あっ……ごめん、おこした?」
「ううん、だいじょうぶ……」
沙良が、へへ、と笑う。思わず波折はとん、と触れるだけのキスをした。そうすると沙良も同じようなキスを何度かしてくる。
「先輩。週末、俺の家きてくれますか」
「うん」
「へへ……駅まで迎えにいきますね。危ないから」
「大丈夫だよ……」
「いいから」
沙良は半分寝ぼけているのかもしれない。ぼーっとした瞳で波折をみつめて、言葉もどこか舌っ足らず。ぼやぼやとした会話をしたあと、またぱたりと瞼を閉じて眠ってしまう。
「沙良」
波折は沙良の瞼にキスをする。そして、じっとその寝顔をみつめた。
今のこの時間が、幸せだなと思うから。時が止まってしまえばいいのに、と思うけれど。そんなに世界は、やさしくない。
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