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――沙良と波折が眠りについたころ……波折のマンションの前に、一台の車が止まっていた。その中には、二人の人間。
「週末、たぶん波折と神藤くんが会うだろう? そこを狙っていこうかな、と」
淺羽と鑓水だ。鑓水は寝ようとしたところで急に呼び出され、こうして淺羽の車の中にいる。切りだされた会話は、案の定、近いうちにと言われていたテロについて。きいたところによると淺羽の属している組織というものはまだゴロツキが集まったような不安定なもので、統治する者がいない。上下関係というものもないらしく、一番の知識人である淺羽がとりあえずのリーダーとなっているくらい、らしい。だから、今回のテロは完全に波折と沙良を狙ったもの。淺羽のやりたいことを実現するための大掛かりなテロだ。淺羽の知りたいことも知ることができて、そして魔女の威厳を世間にしらしめることができる、ということで一石二鳥といったところだろうか。
「……波折を、巻き込むのかよ」
「大丈夫。神藤くんいるし」
「あいつは魔術を使えない。校則だ」
「関係ないさ。校則とかそんなもの、魔女を目の前にした神藤くんには無いも同然。魔女を殺そうと得意の攻撃魔術を使ってくれるだろうね」
「……」
沙良を刺激し彼の本性を引き出す、それが淺羽の目的。それだけのために大勢の人を巻き込むだなんてばからしいとしか思えないが、鑓水に文句を言う資格はない。淺羽にとって沙良から得ることのできる情報というリターンがリスクよりも上まっていた、それだけのこと。
今回鑓水は直接的に手を下す役割ではないという。それでもテロを支援しているということは人殺しを支援しているということだ。もう後戻りできないところまできてしまった。しかし今の鑓水にとって何よりも気になるのが、波折の安否だ。本当に今回のテロで波折は無事でいられるのか、ということだ。波折は淺羽に「完璧な人間を演じろ」という命令をされているから、「完璧な生徒会長」として絶対に校則を破らず魔術は使わないだろう。たとえ、見に危険が迫ったとしても。じゃ沙良はどうか、といえば彼も使うとは思えなかった。人を傷つけたことのないような人間が、その場で魔術を使って敵を殺めるだなんて思えない。本当に波折は傷つかずにすむのだろうか。
「……波折が、防御の魔術だけを使うという可能性は? たしか防御魔術だけだったら即退学にはならないよな。ペナルティがつくだけで退学にはならないから、絶体絶命に陥れば波折が使うかもしれない。即退学になる攻撃魔術は使わないにしても」
「ないだろうね。ペナルティがつくということは生徒会長の品位が疑われる。そういった行為は波折はしない」
「……そうか」
そういえば沙良はそこまで防御魔術が得意ではなかったような気がした。攻撃魔術を得意とする彼は、その逆の属性の防御魔術は得意ではないだろう。危険な状況のなかで上手く使いこなせるとも思えない。
「……本当に、波折は傷つけるなよ」
「もちろん」
色々と考えても、波折の安全が絶対に保証されるなんてことはなさそうだ。鑓水にとって、それだけが憂鬱でたまらなかった。いつの間にか、自分が人殺しに参加するのだという不安は消えていた。
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