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Epilogue~to the beginning~
***
「今年うちの事務所に入って来た裁判官、二人だろー?」
「そうみたいだな」
「魔女が凶悪化したからって裁判官試験厳しくしすぎだと思うんだよねー、まず人手が足りないから人数増やして欲しい」
「そうだな」
「……俺の話聞いてる?」
カツカツと靴を鳴らしながら廊下を歩く男が二人。ぶすっとしながら自分の話に興味なさげにしている彼に、片方の男は話しかける。
「でもさ、今回そうやって厳しい試験ぬけてきたって二人ってことは、かなり優秀な裁判官ってことだよね、そいつらの教育係になるとかちょっと俺緊張する」
「有賀も優秀だから大丈夫だよ」
「えっ、なに突然のデレに俺きゅんとした!」
「うるさい」
やがて、二人はある部屋にたどり着く。ここで、二人の後輩となる、新人裁判官が待っている。
「そーいや片方の子、おまえと同じJSの子らしいじゃん。知ってる子?」
「……ああ」
男――有賀が扉に手をかける。その様子を、もう片方の男は黙って見つめていた。その瞳は哀調を帯び、揺らめいている。
「――こんにちは」
扉を開けると、二人の青年。スーツがどこかぎこちない、今日からこの事務所に入ってくる新人の裁判官だ。
「はじめまして、今日から君たちの教育係になる有賀知己 と……」
「――冬廣波折です」
有賀に促されて男――波折が自己紹介をする。有賀は新人の裁判官二人ににっこりと微笑むと、まずは一人に手を差し出し挨拶を促す。
「……檜山加純 です」
「檜山くん。よろしくね」
「よろしくお願いします」
まず自己紹介した青年・檜山はぺこりと頭をさげる。まだ青さを感じる顔立ち。そんな彼に有賀は目を細めて、そして隣の青年にも自己紹介を求める。青年はす、と有賀と波折を見据えて、軽く息を吐く。檜山に比べてどこか達観した風の青年に、有賀はすこしばかり驚いた。
「神藤沙良です」
凛とした声で名を名乗った青年、沙良。およそ新人に似つかわしくない空気を醸し出す彼に。有賀と檜山は息を呑む。しかし、波折は顔色ひとつ変えず、言う。
「……二人とも知っていると思うけれど、近年の魔女は凶悪化している。生半可な気持ちで立ち向かえば、死ぬことだってある。……君たちの、決意をひとつ聞かせてもらおうか。これから命の危機と隣合わせになる君たちの、裁判官としての決意を。……じゃあ、まず檜山」
「……、はい」
物腰柔らかな有賀と違って、どこか重々しい雰囲気を放つ波折。波折に名前を呼ばれて檜山は僅かに震えたが、声色にその動揺を出さないようにぎゅっと拳を握りしめる。
「……俺は、平和な世界をつくりたい、そう思っています。魔女が現れるんじゃないか、その怯えをいつも抱えながら過ごすのはもう懲り懲りです。だから、何が何でも魔女を殲滅します」
「……なるほど。じゃあ次――神藤」
何か厳しい言葉でも言われるのではないかと身構えていた檜山は、波折の視線がすぐに沙良に移ったことにほっとしたように、肩を落とす。
そして、「神藤」、そう呼ばれた沙良はちらりと波折を見つめた。
「……」
お互いの過去など、この場には存在しない。
――おまえは、敵だ。
「大切な人を救う、そのためにここに来ました。大切な人を救うために、俺は――「すべて」の魔女を消します」
「……」
波折の胸に突き刺すように、沙良は言い放つ。そうすれば、波折はふ、と笑ってみせた。波折はゆっくりと沙良のもとに歩み寄ると、沙良の胸に人差し指を突き立てる。
「その言葉を聞きたかったよ。神藤」
――待っていた、波折の言葉が聞こえてくるようだった。この人差し指には、波折のどんな想いがこもっているか……沙良にはすぐに理解できた。
『俺が、おまえに刃を向けることもあるだろう。』
「――俺、絶対に魔女には負けません」
ここに、全てがはじまるのだろう。お互いの宣戦布告がされた。
決して、なにも知らない者には理解できない二人の言葉の意味。それは、子供の自分を捨てた二人の、これからの運命を辿る決意だ。
スイートアンドビターエゴイスト
-end-
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