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Engage ring1
(鑓水×波折のお話)
「慧太、おはよう」
鑓水が目を覚ますと、朝日に照らされた波折が微笑んで見下ろしていた。すでに髪も服装も整えていて、きらきらとしている。ああ、愛おしいな……そう思いつつ鑓水は、波折に手を伸ばさない。ここで彼に触れたら、彼を愛でたくてたまらなくなってしまうからだ。忙しい朝に、そんなことできるわけがない。
鑓水がのそりと起き上がると、波折がちゅっとキスをしてくる。バカおまえそんなことしたらせっかくの我慢が――そんな想いを飲み込んで、鑓水はよしよしと波折の頭を撫でた。
――波折と鑓水が同居を始めて、二年以上経っている。浅羽はあの日波折たちに打ちのめされたあと、波折と性関係を持つことをやめていた。ただ、波折が浅羽の目的のために動こうとしているのは変わっていないらしく、進む道は結局は悪の道。
波折の置かれている状況は、以前苦しいもの。しかし、鑓水はこうして浅羽が波折と少し距離を置いたことによって、波折をほぼ独占できていた。波折が自分のことをどう思っているのかは、まだよくわかっていない。しかし、一緒にいてくれているというだけで鑓水は幸せだった。
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