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Engage ring2
***
「――慧太、お疲れ」
鑓水が仕事を終えて帰ろうとすると――鑓水の車の前で、波折が待っていた。
鑓水は、波折と同じ事務所で働いている。しかし、波折と同じ裁判官ではなく、裁判官たちの心のケアをするカウンセラーという職についていた。裁判官になろうと思えばなれたのだが、浅羽が裁判官たちの心理状況のデータが欲しい云々と言っていたため、そういった情報を集めやすいその職についた。
ただ、職場に波折との関係を知られるわけにはいかない。波折は裁判官一年目にして非常に期待されていて、おそらくあっという間にトップをとるだろうし、そんな彼に同性愛などという噂がたってはいけない。そのため、出勤も退勤も別の車で違う時間にしていた。
「波折……どうした」
「んー、一緒にごはん食べに行こうと思って」
「? いいけど……めずらしいな?」
「……たまには、デートしようよ」
ほんの少し、波折が頬を赤らめる。その可愛らしい表情に、なんで朝電車使って出勤したのかと思ったらそういうことか、ぶっちゃけレストランのごはんよりおまえのごはんのほうが美味しい、とか余計な考えは吹っ飛んで、鑓水はうきうきと車に乗り込んだ。
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