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Engage ring3
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食事を終えて、夜風が心地良い、そんな状態で再び車に乗り込む。行きは波折が運転したため、今度は自分が運転しようと鑓水が運転席についてシートベルトを締めようとしたときだ。波折が、きゅ、と鑓水の腕をひいてキスをしてくる。
「……波折?」
「慧太……知らないでしょ」
「……なにが?」
「俺、ちゃんと、慧太のこと、好きだよ」
「……知ってるけど」
「……そうじゃなくて」
波折の瞳は、夜の光できらきらと輝いていた。そして、微かに切なげに細められている。波折は、その瞳のまま、微かに微笑んで、鑓水の手に自分のものを重ねる。
「俺……慧太に、恋、してるよ」
ドッ、と鑓水の心臓が高鳴る。あんまりにもその表情、言葉がしとやかで、美しくて、愛おしくて……心臓が激しく高鳴りすぎて、死んでしまうのではないかと思ったほど。
波折は――浅羽のせいで、おかしくなった。愛されることが大好きで、そして愛してくれる人たちがみんな好きで。波折にとっての「愛」は、普通の人たちの「愛」とは確実に別物だった。
それを、鑓水は理解していた。鑓水は一般的に言う「愛」を波折に抱いていて、そして波折が自分に対して抱いている「愛」が自分のものとはズレている、それをわかっていた。それでも波折のことは愛しているし、波折は自分を必要としてくれているし、この愛が一方通行だとしてもずっと一緒にいよう……そう思っていた。
だから、波折の言葉には驚いた。「恋」という言葉。波折の口からでてきたことはない。「愛している」ならばセックスの最中とかに何度も言ってきていたが……あえてここで「恋」と言ってきたのは……
「……ごめんね、慧太に不安な想いさせていたでしょ」
「え、なにが?」
「俺が、慧太のこと好きじゃないって」
「波折は波折の愛し方で俺を愛してくれているって、わかってたよ、謝らなくても」
「ほら……慧太は、自分の愛が一方通行だって、そうやって苦しんできた。俺が、おかしいせいで」
「苦しんでなんかいない……! 波折、俺は……」
「愛し合ったほうが幸せに決まっているでしょ、慧太……」
波折が鑓水の手をとって、自分の左胸にあてる。――激しく、心臓が高鳴っていた。それに連動するように鑓水の心臓までもが高鳴ってきて、狂ってしまいそうになる。
これは、まさか――絶対に、ないと……「諦めて」いた……
「愛している、慧太。俺、慧太と同じ気持ちだから」
「――っ、ま、まって……」
波折が再びキスをしてこようとして、思わず鑓水は逃げた。かあーっと顔が熱くなって、混乱してしまって、思わず逃げてしまったのだ。
――これは、夢だろうか。波折と本当の意味で気持ちが通じるなんて、そんな……。
鑓水の動揺は収まらず、ずっと顔を赤くしてぼんやりとしていたものだから……結局、波折が運転をすることになり、席を交代することになってしまった。
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