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Engage ring5

*  お互いに指輪をつけて、それから二人はばかみたいにずっと泣いていた。泣きながら相手の名前を呼んで、キスをして、そうやって幸せを噛み締めていた。  寝室に、移動する。ベッドの上に押し倒された波折は、まるで淑女のように顔を赤らめた。沸騰してしまうくらいに顔を赤くして、涙を流して、それでも鑓水から目を逸らさない。自分を見下ろしてくる鑓水と目を合わせると、心臓がバクバクといって、きゅんきゅんとして、息が苦しいけれど幸せだ。 「波折、なんか、本当に、すごいよな」 「……ん?」 「いや……俺の話で悪いけど、俺一人の人とそんなに長く続いたことないからさ。だから……こうしておまえと三年も一緒にいて、そしてこれからもずっと一緒にいたいって思えて……昔の俺が聞いたらびっくりするような現状が、すごいなって」  鑓水が、波折の頭をそっと撫でる。その手には、シルバーリング。  波折は鑓水の言葉を聞くなりまたぽろぽろと泣きだして、しゃくりをあげはじめた。一度涙が収まったもののまた泣きそうな顔をしてそんなことを言った鑓水をみていると、嬉しくて仕方がなかったのだ。昔、自分は弱いのだ、とそう言って迷って辛そうにしていた彼を思い出すと、本当に嬉しい。今の鑓水は……誰がみてもわかるくらいに、幸せそうな顔をしている。 「波折……愛している、愛しているよ。俺は今、おまえのおかげですごく幸せなんだ」 「け……いた……」  鑓水が、くちづけてくる。息継ぎの合間に波折の名前を呼びながら、何度も何度も。低くかすれた、色っぽいその声で「波折」と囁かれるとおかしくなってしまいそうで、波折の心音はさらに激しくなってゆく。自分も「慧太」と呼び返そうと思っても、胸がいっぱいすぎて声が詰まってでてこないほど。波折の唇から漏れるのは、甘く蕩けた喘ぎ声だけだった。 「あっ……」  鑓水が波折の服を脱がせ、そして身体への愛撫を始める。まずは顔から。髪の毛、額、瞼、鼻に頬にもちろん唇に。それから耳たぶを甘咬みして耳孔のなかを舐めて、耳の付け根にキスをして。どこかに唇で触れる度にやっぱり「波折」とささやきながら、丁寧に丁寧に波折の全身に触れてゆく。 「はっ……あぁ……」 「波折……波折……」  首筋、鎖骨、肩には噛み跡をつけて。指の一本一本を舐めて。それから胸やお腹は手のひらで撫で回しながら、乳首や臍を舌でくりくりと刺激した。 「あぅっ……んっ……やぁ……」 「波折……可愛い、波折……」 「けい、た……あんまり、名前……呼ばないで……」 「呼びたいんだから呼ばせろよ。一回呼ぶ度にもっと好きになる気がするからさ……呼びたい。波折」 「うっ……」  ひくんっ、と波折の身体が震える。いつもに増して甘い甘い鑓水の責めが、心臓に悪かった。感じるところを集中的に責められたというわけでもないのに、波折の身体はすでに火照っていて、はーはーと唇からは吐息が零れている。手先やつま先がシーツを掻き布擦れの音が仕切りに響いて、寝室には艶やかな雰囲気が立ち込める。 「綺麗な脚だな」 「そ、そういうこと、言わないで……」 「前よりちょっと筋肉質になったかー? 毎度毎度戦闘してりゃそうなるかな」 「……前の方が良かった?」 「ん、こっちも好き。波折の脚、形綺麗だからそそられる」  つま先から太ももにキスを落とす。脚の付け根に近づくほどに、波折は甘い声をあげていた。リップ音を立てながら少しずつ少しずつアソコに近づいていくと、波折のアソコがヒクヒクと疼く。早くソコをいじってほしいんだな、と感づいた鑓水は、ふっと笑って波折の脚をぐっと開いてやった。 「んんっ……」 「波折、ほんと、エロい」 「……だって、……けいたとエッチすると、感じちゃって……」 「……今も感じてる?」 「すごく……感じてる……」  波折が自分の膝の裏を持って、自ら脚を大きく開く。感じているアソコを見て欲しいって、そう言いたげに。波折の穴はぱくぱくと閉じたり開いたりしていて、本当に欲しそうにしている。立ち上がったペニスから溢れる愛液が垂れて穴を濡らし、ぬらぬらとテカっている。ゾクゾクするくらいに、卑猥だ。それでいて、綺麗。  鑓水はためらいなく、波折のアソコにしゃぶりついた。唇で波折の穴を覆って、舌でぐいぐいと強く舐めてやる。 「あぁっ……! んぁっ……!」 「可愛い、波折」 「あーっ……」  波折は鑓水の頭を掴みながらのけぞって、カクカクと震えながらイッた。鑓水は顔をあげてちらりと波折のイキ顔を上目遣いに見つめる。白い身体がのけぞって胸ではピンク色の乳首がツンとたって、その奥にとろとろに蕩けた波折のイキ顔が見える。絶景だな、とそう思いながら鑓水は唇を親指でぬぐった。そしてふっと笑うと、体を起こし波折に覆いかぶさる。 「イキ顔が、本当に可愛いんだわ、波折。ああ、ほんと、好き」 「あんまり、みないで……けいた……はずかしい……」 「なんで? 見せろよ。おまえの全部、俺にくれるんだろ」 「……っ」  波折がまた泣きそうな顔をして、きゅっと唇を噛む。そして、そろそろと左手で鑓水の頬を撫でた。自分の薬指に光るシルバーリングと鑓水を見比べて、そして耐え切れずぽろりと涙をこぼす。  「全部をくれるんだろ」って、そんなことを鑓水はごく当たり前のように言う。たとえば普通の恋人同士ならそれは、甘い響きをもった言葉かもしれない。でも、自分たちは違う。波折の背負うものはあまりにも穢くて苦しいもの。それを受け止めてくれる鑓水の、波折への愛はきっと海よりも深い。それを感じとって、波折は切なくなって、それでも嬉しさを感じた。  鑓水の愛を受け止めることを、昔はどれほど躊躇しただろう。彼に自分の持つものを背負わせたくなくて、たくさん彼を拒絶した。それでも鑓水は自分を愛してくれた。もう――自分たちに待っているのは破滅だけだとわかっている。それでもいい。彼と一緒に、生きて、死んでいく。 「――ッ」  鑓水が、波折のなかに自分のものを挿れる。こうすれば、あとは波折はイキっぱなしだ。鑓水とひとつになっているという事実、視界に入る色っぽい鑓水の姿、それから襲い来る快楽。それらが波折を何度も何度も絶頂に追い詰める。 「あっ、あっ……! けいたっ……けいた……」 「波折……ッ、波折……」 「けいた……あぁっ……!」  全身で波折を抱きしめて、そして鑓水は腰を動かす。波折は鑓水をきつく抱きしめ返して、甘い声を上げ続けた。鑓水の事が愛おしくて愛おしくて、こうしてセックスをしていると本当に幸せを感じる。触れ合った肌と肌が溶けてひとつになってしまうんじゃないかと錯覚を覚えるような、そんな鑓水とのセックスが、波折は大好きだった。愛し「合っている」のだと、強く感じることができた。 「あぁっ……!」  鑓水が絶頂に達したときに、波折の一番の絶頂がくるのはいつものことだ。自分を抱いて鑓水がイッてくれたのだという事実が嬉しくて、それで波折もイッてしまう。なかに出されると、鑓水の愛が注がれたような気がして、胸がいっぱいになる。  波折を愛するのに全力を使ったのか、鑓水も疲れてしまったようで、ごろりと波折の隣に横になった。鑓水のはあ、はあ、とかすれた吐息があんまりにも色っぽくてドキドキとしながら、波折は横になる彼の胸にぴたりとくっついてみる。 「波折……今度ハネムーンいこうぜ」 「……ふ、なに、それ」 「あ、でもその前に……」  鑓水がよいしょ、と身体を起こす。そして、波折の手を引いて波折も起こしてやった。鑓水に抱かれて幸せいっぱいのぽやんとした波折は、鑓水を動作をぼんやりと見つめている。 「誓いのキス、しようか」  鑓水が波折の頭にシーツを被せて、キスをする。手のひらを重ねれば、相手のはめているシルバーリングの感触が指に伝わってくる。 「……愛しているよ、波折。ずっとずっと、永遠に」 「……俺も。慧太……愛してる」  鑓水が、涙を流して微笑む。その表情に、また波折は泣いた。  再び唇を重ねる。カーテンの隙間から溢れる月の光に、二人のシルバーリングが輝いていた。 了

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