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1.ノーヒント・ノーライフ(健×夕輝)

 放課後の河川敷は夕陽のせいで河面だけでなく辺りの河原までをもすべてを紅く染める。 「不良の定義って何なんだろなー」  きらきらと輝く河面を眺めつつ、西川夕輝は取るに足らないことを考えていた。なぜならば―― 「ねえしょーちゃん、早く帰ろうよぉ」 「川で遊びたいって言ったのお前じゃんか」 「でもぉ、」 「どーせあそこにいる不良がこわいんだろ。ひろきのいくじなし」 「不良とか言っちゃだめだよ、聞こえちゃう……」  ――などと、先ほどから少し離れた場所で遊んでいた小学生に怖がられてしまっているからである。河原の端に転がるひと際大きな岩の上で器用に膝を抱えるような男子高校生が怖いはずもないのに。  何となく気まずいのとふて腐れたのとで左側の頬を掻いたら、できたばかりの傷に指先が当たってしまった。 「いっっった!」  予想しない突然の痛撃は、予想して受けた痛みの何倍も痛い。夕輝は思わず声を上げ、顔をしかめる。  するとその表情が余程厳つく見えたのか声の大きさに驚いたのか、『ひろき』と呼ばれた少年は肩をびくりと震わせた。そして。  ――エェーッ、泣いちゃうの!?  少年の目はぶわっと一気に涙目になり、あと一歩で泣きそうになっている。自分は驚いても驚かせたつもりのなかった夕輝としては釈然としないが、心配は心配だ。  しかしそれも杞憂だったようで、見かねた『しょーちゃん』は勇ましい表情でべそをかいている『ひろき』の手を引っ張り、足早に立ち去っていった。心なしか『しょーちゃん』は自分を睨んでいたような気がする。  ――泣きたいのはこっちの方だよ……!  夕輝はふたたびふて腐れて、左頬にできた傷をそっと撫でさすった。  どういうわけか、夕輝はここのところ――細かくいえば高校生になってから――よく強面な人たちに絡まれたり大人しそうな人たちに怯えられたりしている。  もちろん夕輝側から突っかかったりむやみに睨んだりはしていない。変な因縁をつけるようなこともない。本当に不思議だ。  とはいえ、このまま問題を放置して今後もワイルドな生活を送りたくなどない。解決策を見出すヒントを得ようと不良の定義とは何か、なんてことを気にしているのであった。 「不良っていうのはね、品行の悪いこと、またそのような若い人、だよ」  突然自分の問いに答える声が聞こえ、はっとして声のした方を向く。 「――健」  向いた先にはよく見知った幼馴染の松井健が立っていた。  健は走って来でもしたのか、真っ赤にした顔にたくさん汗をかいて、勤勉ぶりを象徴する眼鏡は荒い息のせいで曇ってしまっている。 「あとは質や状態などがよくないこと、機能などが完全でないこと、そのさまってのもあるね」 「そっちの不良じゃねーよ。あと汗はすぐ拭け、お前すぐ風邪ひくんだから」 「そう? 意外と関係あると思うけどなあ……ああ、ありがとう」  幼馴染ともなれば、一つの会話に二つの話題を混ぜこぜにするなんてことは容易い。  憎まれ口を叩きながらも夕輝がハンドタオルを差し出すと、健は笑顔でお礼を言ってそれを受け取った。 「っていうか辞書の言葉を参考にするより夕君があの子たちくらいだったときの不良のイメージを思い出した方がいいんじゃない?」 「何でだよ」 「だって夕君別に品行悪くないし」  眼鏡を頭上に上げ、ゴシゴシと顔を洗うように豪快に汗を拭う健がこもった声でアドバイスを送る。どうやら話したこともない夕輝の考えはお見通しらしい。  考えていることが言わなくてもわかるというのも幼馴染にはありがちだ。ただ、夕輝は健が何を考えているのかさっぱりなので健のみにしか当てはまらないようだが。 「ちょっと待て。『あの子たち』ってお前、現場見てたんならアイツらの誤解とけよ!」 「えー。誤解とくのは簡単だけど、根本的に解決しないと仕方ないからあえてそのままにしたのに」 「いや、俺じゃなくてひろき? が怖がってかわいそうだったろーが」  その気もないのに泣きそうになるほど怖がられたのはもちろん悲しい。  だが、それ以上に『ひろき』に怖い思いをさせてしまったことが気にかかった。きっと楽しく遊んでいただろうに、自分のせいで河原での思い出が嫌なものになっては申し訳が立たない。  夕輝自身、この河原は小さい頃によく健と遊んだ思い出の場所となっている。できることなら先ほどの彼らにも同じように感じてもらいたい、というのが夕輝の考えだ。 「そういうところがさあ……」 「あ? 何か言った?」 「いや、あの二人なら大丈夫だと思うよって」  一方、同じ思い出を共有しているはずの健はそうでもないのか、どこ吹く風で答える。  もしかしたら単純に楽観視しているだけなのかもしれない。昔から勉強はできるくせに自分のことになると無頓着気味なのが健だ。  ――それでも間違ったこと言わないからなんも言い返せないんだよなー……。  夕輝は反論するのを諦め、足を下ろしてスペースを空けた岩場に健も座るように促し、言われたとおり小さい頃の自分が抱く不良のイメージを思い浮かべた。  夕輝がひろきたち同じくらいの歳の頃、この河原には夕輝とは違い“本物の”不良と呼ばれる高校生がたまに来ては喧嘩をしていた。  彼らは漫画に描いたような典型的な姿をしたように思う。  大抵が派手な色をしている髪は長くしていたり極端に短かったり刈り上げていたり。制服は着崩していて、喧嘩が多いからか身体のそこかしこに生傷が絶えない。  耳がピアスだらけの人もいたし、タトゥを入れていた人もいた。うるさいエンジン音のバイクを乗り回してる人もいた。全員一致だったのは目付きが悪かったことだろうか。  ――あれ? 俺結構当てはまってね?  怖くて話したことはないので見た目のことばかりだが、思いつく限りで挙げていったら自分との共通点がいくつかあることに気がつく。  夕輝は忘れないうちに指折り数えていくことにした。  まず髪型。色素が薄い家系に生まれたせいで地毛が明るい髪色をしている。  中学の時は理解ある教師が多く何も言われなかったが、高校に入ってからは色気づいたと勘違いされ理解が得られず、長めだとその色が目立つのでいつも床屋でやや短めに切り揃えてもらうようにした。 「なんでそんな髪型にしちゃったの? せっかくサラサラなのにもったいない」 「長くしてると鬱陶しいんだよ。髪自体も教師の小言もさ」 「あ。夕輝今、俺ちょっと上手いこと言ったなとか思ったでしょ」 「事実を言ったまでだし……っておい、変な顔して笑ってんな!」 「痛っ」  謎の理由でにこりと微笑むような顔ではなく、ニヤニヤといやらしく笑う健を腕で小突く。小突いた腕のまくり上げたシャツの裾には頬同様に生傷がついていた。  なかなか気性の荒い夕輝ではあるが、傷は喧嘩でできたものではない。夕輝は小さい頃から不思議とよく転ぶので怪我が多いのだ。 「昔から夕君はケガしてばっかだよね」 「落ち着きがないんだろ。よく言われる」 「痛いの嫌いだし綺麗な肌なんだから大人しくしとけばケガしないのに」 「じっとしてんの苦手なんだよ」  気性が荒い上に短気なので、集中できずに注意力が散漫になるのだろう。痛いのが嫌いだから転ぶたびに保健室の先生や親に泣きついていたら口々にそう言われた。  ちなみに同じく痛いのが嫌いだからという理由でピアスとタトゥはしていない。アクセサリーの類も鬱陶しく感じてしまうから着けていない。  鬱陶しいのが嫌だから制服もしっかり着るつもりでいる。それなのに、背丈も小さく細身なのに見栄を張って大き目の制服を買ったせいでだらしない着こなしになってしまっていた。シャツの襟ぐりは開いてしまうし、ズボンなんかはベルトをしていてもずり下がって腰パンになってしまうほどだ。 「夕君って中学のときから背伸びてる?」 「失礼だな! これでも一年で五センチ伸びたよ!」 「たしかに高校生の一年間で五センチはすごい……かも? ふふ」 「だからその笑いマジでやめろってキモい」  今度は先ほどからたびたびニヤリとする健の頭を小突いて睨むが、健はどこか満足そうにしている。それが余計に気持ち悪くて、夕輝は自分の肩を抱くようにしてさすった。  それにしても、知らずのうちに不良らしい見た目になっていたとは思いもよらなかった。  良かれと思ってしていたことが無駄どころか逆効果だった――たとえば髪型の件だとか――というのはむなしいけれど、見た目を改善すれば少しは平穏な高校生活が送れるはずだ。  そして、どうすればいいのかということに気づけたのは健のおかげだ。健が「昔の自分を思い出せ」と言ってくれたから気づけた。  健は昔から答えがわかっていても正解を言わずに、夕輝が答えを出せるようにわかりやすいヒントを出してくれる。  ――この河原でどんくらい健にヒントを出してもらったかな。  夕輝がこの河原を思い出と記憶しているのは、何かにつまずくたびにここへ来ては健が励ましてくれるからだった。夕輝は物理的にだけでなく心もつまずきがちな子どもだった。 「なあなあ。お前この傷覚えてるか?」  できたばかりの傷に触れないよう左側の目のあたりを指さす。そこには二ミリ程度の小さな切り傷ができていた。 「俺のガリ勉メガネ奪ってかけたときのやつ?」 「そー」  小学生の頃から眼鏡をかけていた健はガキ大将のような同級生に頻繁にからかわれていた。  いじめというほどではなかったけれど親友が馬鹿にされているのが許せなくて、全然気にしない健に代わって夕輝がガキ大将相手に憤慨していた。  ある日そのガキ大将は健の眼鏡に向かってあれこれ投げ始めた。消しゴムのカスや紙くずから始まり、小さめの練り消し、大き目の練り消し……と徐々に大きくなっていくのが見えて、夕輝はついにブチ切れてしまった。  健から眼鏡を奪い、奪った眼鏡をかけてガキ大将相手に挑発をした。 『メガネかけてるやつがガリ勉ならこれでオレがガリ勉だ! ぶつけるならオレにぶつけろよ!』  最初は困惑気味だったガキ大将も挑発されたことで火が付いたようで、練り消しのケースごと夕輝に投げつけた。  すると運悪くケースの角が肌の薄いところにぶつかり、傷が残ってしまった。――というわけである。 「あんときケガした俺だけがおかんにめっちゃ怒られたじゃん? それがほんと意味わかんなくてさ」 「あのときもこの岩に座って『なんでだよー!』って叫んでたよね」 「もうすっかり定位置だよな」  今と同じように岩に座って健にあれこれ愚痴を吐いていると、そのうち健は言ったのだ。 「どうして夕君は俺からメガネ奪ったの?」  若干高低差のある声がステレオのように隣と脳内から聞こえてきて、夕輝は目を丸くする。 「どうしてってお前、もう一度言わせる気かよ」 「いいじゃん。俺、もう一回聞きたいな」 「えええ……」  どうやら健は当時の再現がしたいらしい。  気恥ずかしくて再現などしたくないというのが夕輝の本音だが、眼鏡の奥にある目を輝かせて続きを待つ健を見るとどうにもノーとは言い難い。一度軽い咳ばらいをして、照れの混じったもごもご声で答える。 「どうしてって、健がケガしたらやだったから」 「痛いのも嫌なのに?」 「っておい、続けるのかよ」 「もちろん。せっかくなんだから最後まで続けようよ」  こうなった健は梃でも動かない。夕輝が短気なのとは真逆で健は気が長いというか、マイペースさに隠れてわかりにくいがかなりの頑固者なのだ。  先に話を振ったのは自分。幸い周りに自分たち以外の人はいないし、最後まで続けるしかない。夕輝は腹を括った。 「……痛いのやでも。俺が痛いよりもっとやだ」 「でも俺も夕君といっしょで、夕君がケガするの嫌なんだよ」 「うん」 「夕君が間近でケガするの見てどんな気持ちだったと思う?」 「えっと、嫌な気持ち?」 「そうだよ。俺だって、夕君がケガするくらいなら自分がケガした方が何倍もマシ」  言い終わるが早いか、健は心配そうな表情で夕輝の頬にできたばかりの傷に触れた。  左頬を包むように手のひらで掬い上げ、親指のはらで傷の周りをやさしく撫でる。傷の箇所だけが違うけど、あとはあの日と同じ所作だ。  健が夕輝に言いたかったこと。  夕輝が健のケガを心配して行動に出たのと同じように健も夕輝にケガをしてほしくないということ。夕輝の母親もまた同じ気持ちであること。  激情型の夕輝はかっとなってすぐに動いてしまうから、思いの外周りに心配をかけさせているようだった。夕輝の両親――特に母親は危険なことをするなとよく怒っていた。  でも、幼い子どもは頭ごなしに怒られると萎縮したり反発したりしてしまう。幼いながらに親の言い分や自分の間違いをわかっていても。  そんな中で健の言うことだけはいつも素直に聞けていた。健はヒントを出すだけで答えを自分で出せるように誘導してくれるから。自分で出した答えなら、なぜだか訓戒のようなものも素直に聞ける。  健は昔から答えがわかっていても正解を言わずに、夕輝が答えを出せるようにわかりやすいヒントを出してくれる。  それは、夕輝の性格をよくわかっているからこそできること。自分のことをよく見ていてくれる人がいて、それが大事な幼馴染の健であるというのは嬉しかった。  そんな健のすごいところに気がついたのは、怪我をしたあのとき、この河原でだった。  逆をいえば、健のすごいところに気がついたこの場所だからこそ思い出になって、以来悩みができるたびに訪れるようになったのである。 「そっか。健もいっしょなんだな」  当時は健のおかげで母親の怒った理由がわかって夕輝が「すっきりしたー!」と叫んだあと、二人仲良く手をつないで帰った。夕輝が母親に謝るのについてきてもらおうと思ったのだ。  だから、このあと健は「わかったみたいだね」とやさしく微笑むはず。そう思って待っていたのに、返ってきたのは正反対の台詞だった。 「夕君は全然わかってないよね。俺の気持ちは今も変わらない」 「――え?」  そればかりか、健の顔が焦点も合わないくらい近づいてきて――頬にある古い傷と新しい傷のそれぞれにやわらかい感触が触れる。 「いつかこんな小さな傷だけじゃなくて、大きなケガしないかっていつも心配してる。だって俺は夕君とこれからも――ずっと一緒にいたい」 「え、あの、たけ…………ッン、」  やわらかい感触の正体が一体何なのかを考えているうちに、やわらかい感触の何かは触れる位置を唇に変えた。   触れるだけのその感触を甘んじて受けていると、夕輝の唇をやさしく啄んできた健のやわらかい感触の何か。本当はすぐに何だか想像がついたけれど、理解するのを拒んでいた何か。――これは健の唇だ。  ――な、なんでキスしてんのコイツ……!?  あと、ずっといっしょにいたいとか何だとかも言われた。健の突然の言動の理由や意味を落ち着いて考えようにも、健の唇は自分の唇を好き勝手してきてとても冷静ではいられない。  こんな風に悩んだときはいつも健がヒントを与えて答えを考えさせてくれるけれど、今回は肝心の健が悩みの元で、この場合は誰に頼ったらいいんだろう。  混乱に混乱を極めていると、左頬に激痛が走った。 「痛っ!」 「あ、ごめん」  痛さに驚くあまり腰かけていた岩場からずり落ち、健の腰かけているのと逆側にひっくり返ってしまった。肘の辺りがじくじく痛むから擦りむいているかもしれない。  急に肌色から夕陽の紅へと変わった視界に目をぱちくりさせていると、その顔を健が覗きこむ。眼鏡がずれたままとても心配そうにしたくせに、そのうち健はくすくすと笑い始めた。 「夕君、顔真っ赤」 「うっさいな!」  怒りの勢いに任せて状態を起こせば覗きこんでいる健の顔とぶつかりそうになる。健は「危ないなあ」と相変わらず笑ったまま、夕輝の頭がぶつからないよう軽やかに身を躱した。  健が眼鏡をしっかりとかけ直してるのを見るに、痛みの原因はそのずれた眼鏡だ。変に顔を近づけたせいでできたばかりの傷にずれた眼鏡のフレームがぶつかったに違いない。 「肘の辺も赤くなってるけど大丈夫?」 「ああ」  健に言われて自分の腕を見るとやはり肘の辺りを擦りむいていた。できた傷のほとんどに鮮やかな赤色の血がにじんでいるものの、垂れるほどの出血ではない。 「大丈夫だよこんくらい。……けど、風呂入ったら沁みそう」  入浴時に感じるであろう痛みを想像し、堪えるようにぎゅっと目をつぶり舌を出す。想像だけでも小さくても痛みは苦手だ。 「それよかお前のメガネ簡単にずれるみたいだけどちゃんと合ってんのか?」 「ずれることなんて滅多にないから大丈夫だよ。ほんと夕君は自分のことより他人の心配だよね」  恨みがましく「やっぱりわかってない」なんて言いながらも、健は自分の手を夕輝に向かって差し出した。その手を夕輝が掴んだのを確認し、夕輝の身体を引き上げる。  勉強ばかりしているくせに、身体を引き上げるのは案外強い力。夕輝の小柄な身体は難なく起こされて、しっかりと立位をとった。  だというのに、健は手は夕輝の手を離そうとしない。 「ねえ、さっきはどうして顔赤くしたの?」 「はあ? どーでもいいだろそんなん。いいから手離せ」 「どうでもよくないよ、大事なことだもの。怒ってたから? 夕日のせい?」  ぱっと、手は離してくれた。離してくれたけれど、その後すぐに先ほど知ったばかりの意外な力強さで腕を引かれる。  夕輝の小柄な身体は簡単に健の伸ばした逆側の腕の中にすっぽりと収まってしまった。 「それとも、照れちゃったせいかな」 「ひゃう、」  耳元で吐息混じりの掠れた声にささやかれ、ぞくりと背筋が震える。  それも、最初はいつものヒントを出しながら聞くみたいな言い方をしていたくせに、最後だけは確信を持った言い方で。  健に答えを突き付けられたのは初めてだ。考える隙も与えない、みたいな感じですごく追い詰められている気がする。 「こんなに可愛い夕君が不良なわけないのに、みーんな目が節穴なんだから」 「へ?」 「そのせいで夕君をいっぱい悩ませるし。夕君は俺のことでだけ悩めばいいのに」 「は? お前結構前から言ってることいろいろおかしい」  理解もできないままに話が進んでいってしまいそうで珍しく暴走気味の健が怖くなり腕から抜け出そうとする。  しかし健は逃がさないと言わんばかりに強く抱きしめ、夕輝の肘のすり傷をやさしく撫でさすった。 「俺のせいでできちゃった傷、増えたね。残念だけどこっちは傷の残らないように手当してもらうんだよ。珠の肌に傷でも残ったら大変」 「わかった! わかったからいい加減離せよ!」 「だめ。こういうときの夕君は逃げようとして転んで余計傷つくるに決まってるから」 「もう、離せってばー!」  紅く染まる夕暮れの河原に伸びる影がふたつ。  ときどきひとつにくっつくその影は大きさこそ変わったけれど、きっとこれまでとこれからも、いつまでも変わらない光景なのだろう。 ********** 夕暮れの河原で真面目な顔で手を握られ、震える声で「ずっと一緒にいたい」と言われて、パニックで逃げ出そうとして転んでしまう - 幸せそうな2人が見たい(https://shindanmaker.com/597297) 20180604

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