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第31話

歩行者達の中を全力で駆け抜ける智則は視線を感じながらも気にせずただ走り続けた。 少しでもあの場所から遠くへ。 土地勘のない智則だったがどうにかして、一部屋が会社の持ち物であるアパートへたどり着くと、隣にある大家へ駆け込んだ。 適当な事情を作り部屋の鍵を開けて貰うと、智則は玄関口で崩れるように座り込んだ。 「はあっはあっ、帰ってこられた…」   不安が安心に変わると視界がぼやけ目が潤む。 暫くそのまま動かずにいた智則だったが、目を乱暴に擦ると部屋の奥へと進んだ。 「休んでる暇なんかない。まずは会社に電話しないと」 部屋のテレビをつけて今日の日付を確認すると、丁度一週間経っていたようだ。 一週間も何も連絡せず、会社を休んでしまった。しかも出向当日から。 もう自分の席はないだろうと覚悟を決めて固定電話から会社へ連絡を入れた。 お前みたいな無責任な奴はクビだ! そう怒鳴る部長の顔を思い浮かべながら電話が部長の元へ回るのを待っていると、智則の予想とは裏腹に、元気でよかったと心配された。 智則はあの日携帯を壊されてから会社に連絡を入れていないのは確かだった。だがよく話を聞いてみると、知人だという男から体調不良で暫く休むと連絡があったと伝えられた。 知人だという男…。 脳裏に蘇ったあの男の顔に、智則は緊張した。

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