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第32話

戸惑う気持ちをどうにか誤魔化し電話を終えた智則は、掌に滲んだ汗をズボンで拭った。 「風呂入ってもう一回寝よう…」 出勤は明日からでいいと言ってもらえた。 とりあえず今は何も考えずゆっくり寝てしまいたかった。 非日常から平凡な日常へと戻れる。 あの日々は夢だったんじゃないか。 そう思うほど呆気なく終わりが訪れた事に、智則は改めて安堵の涙を流した。 脱ぎ捨てた服を洗濯かごではなく、ゴミ箱へ押し込むと熱いシャワーを浴びた。 体が温まった頃、うな垂れていた頭を上げて目の前の曇った鏡を拭うと自分の顔が見える。シャワーヘッドを掴み鏡全体にかけてよく見られようにした。 久しぶりに自分を見た気がする。 やつれてはいない顔にまたホッとした時だった。 不意に感じた口の中の違和感に、鏡を覗き込みながら口を大きく開けると、智則の心拍は一気に速くなった。 舌の中心に見える銀色の玉。 更に舌を伸ばして鏡を見たままそれに触れると、ぞわりと背筋が震えた。 ───俺のシルシ。 あの痛みとその時に与えられた快感が、智則の体の中心を熱くさせた。 「あれは俺じゃないッ!!!」 股を大きく拡げて男を奥まで受け入れ、心では拒絶しながらも体は気持ちいいとよがり射精したこと。 鏡に拳を叩きつけまた頭をうな垂れると信じられない光景に絶句した。 「な、んで…」 視線の先で陰茎が首をもたげていた。

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