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第42話
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「梅村!来月から始まる大手との案件、頼んだぞ。期待してるからな」
「はい!ありがとうございます!」
智則が出向してきてから二ヶ月が過ぎた頃。
景気の良さに機嫌のいい部長は、その要因である智則を呼びつけると激励しその肩に期待を乗せた。
「梅村~、お前絶好調な」
「明日から連休だし、前祝いに今日飲みに行こうぜ!」
部長の元から自分のデスクに戻ると周りの先輩や同僚が集まり騒ぎ出した。
「ありがとうございます。でもすみません、今日はちょっと…。また今度誘って下さい」
明るく答えると、智則は資料室へ歩いていった。
「梅村の奴、少し前まではすげえ暗くて無愛想だったのに、マジ変わったよな」
「まあ、暗いよりはいいっしょ」
「結婚間近の恋人がいるとかって噂ですよ~」
「仕事もプライベートも順調かよ~」
そんな会話を遠くに聞きながら智則は密かに笑う。
本当の事を知る人は誰一人いない。
その前に、喋る気もないし教える気もないが。
慌ただしい一日が終わり、定時に帰る人から一時間遅れて智則も退社した。
「やばい、遅れた」
スーツの裾を翻しながら慌てて走る智則はマンションに着くと、急くようにエレベーターのボタンを連打した。
エレベーターが止まり、開くドアをこじ開けて家に着くとリビングに駆け入る。
「お帰り、智則」
ソファーに座り煙草を吹かしていた男は智則を笑顔で出迎えた。
「残業?」
「ん、ごめん」
智則は手招きに従い、向き合うように男の上に跨がった。
「まあ、いいよ。次からは気を付けて」
「ッ、はい…」
智則の胸元に顔を埋めた男は体を抱き締めると、その力に智則の顔が歪み口調が変わった。
「一緒に暮らすようになって今日で丁度一ヶ月だ」
男は話しながら智則のスーツを脱がしていく。
ワイシャツのボタンを一つずつ外し肌に手を這わせれば、ぞわりと鳥肌が立った。
「今日は特別なモノを用意したんだけど、勿論、貰ってくれるよね?」
はだけた智則の胸の乳首にはリング状のピアスが見える。両手でそれぞれを引っ張り、肌には男の舌が這う。
「はあっはあっ」
智則は返事の代わりに男の頭を抱いた。
男の手が腰骨に滑りスラックスを脱がしていく。智則も素直に従い腰を浮かせ片方の脚から下着と共に脱ぎ去った。
「今日はここにシルシをあげる」
勃起した陰茎の裏筋に並ぶ幾つものピアスを撫でた男は亀頭を優しく扱き、尿道を指先で抉る。
「いいよね?」
男は顔を上げて智則を見上げた。
智則はゴクリと生唾を呑み込み小さく頷き、男に口づける。
男は智則の舌裏の筋を入念に舐め、舌から移動させたピアスを確かめた。
唇が触れ、男の瞳がすぐそこの距離。
智則の表情が一層熱に灼ける。
そう…、認めたら最後だった。
認めたら何もかもがうまくいった。
鎖で繋ぐ必要はない。
体に与えた痛みと快楽で十分。
それを物語るように、俺のシルシを身に纏った愛しい智則はこうしてちゃんと帰ってくる。
「ほら、智則、なんて言うんだっけ?」
「っ、も……、もっとシて───」
【End】
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