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天使が来た日①
今日、俺の家に天使がやってくる。
可愛い子どものことなどをよく天使と呼ぶが、俺がいう天使はその天使ではない。
正真正銘の天使だ。
(可愛いことには変わりないから、結局はそういう意味合いでも天使か…)
天使の少年を買わないか。
そう話を聞いた当初は本当かどうか半信半疑だった。
だが、物書きをしている俺はちょうど天使を題材にした小説を執筆している途中だったので、その彼を見てみることにした。
その時は買うことなんて全く予想もしていなかった。
彼を見た時、どこか憂いを帯びた顔をしていてとても美しいと思った。
澄んだ瞳は、目があった瞬間吸い込まれてしまいそうだ。
翼はなかったが彼はきっと天使だろう、そう思わせてくれた。
「さぁ、今日からここが我が家だ。俺はアベル、君の主人だよ」
「……」
少し涙を浮かべた天使はこくりと頷いた。
俺に抱かれているのが嫌なのだろうかと思って床に下ろす。
「館の友だちと離れて寂しいのか?」
「……」
首を横にも縦にも振らない。
(意思疎通ができないのは不便極まりないな…)
「そうだな……君の名前を決めようか。とびきりいい名前にしないとな」
俺が考え込んでいる間、彼にじーっと顔を見つめられた。
変な名前を付けるなよということか。
「天使…天使…」
物書きという職業柄、色々な知識を得る。
その中で、最近手に入れた天使に関する情報を求めて頭の引き出を漁っていた。
「うん、君に似ているな?」
きょとんとした顔をしている彼を今度は俺がじっと見つめる。
「エノク書」という偽典にノアの特徴を記した部分がある。
「『肌が雪のように白く、薔薇より赤く髪は白羊毛より白く』…まるでノアだ」
肌が雪のように白く頬は薔薇のように赤みがさしている。
髪は銀色に近いが、光に当たって白く輝いているように見える。
「ノア。ノア……うん、いいんじゃないか?君にぴったりだと思うが…」
「……」
「気に入らないかい?」
ふるふると首を左右に振る。
納得してくれたようだ。
「では、君は今日からノアだ」
屈んでノアと同じ目線に立ってそっと頬を撫でる。
「いいね?ノア」
キュッと一文字に結ばれていた口元が少しだけ緩んだ気がする。
名前を与えられたことに喜んでくれているのだろうか。
「おいでノア、ティータイムにしよう。暖かい紅茶を入れてあげるからついておいで」
そうだ、今日の日のために用意した服を渡さなくては。
その後は家の案内だな。
今日は疲れただろうから早めに寝かせて、それから仕事に取りかかるか…
歩いている間にこの後のスケジュールを簡単に組んでいく。
こんなにも忙しい1日を楽しいと思えるのはいつぶりだろうか。
仕事に追われた生活、枯れたプライベート。
そこに現れた癒し。
なんて運命的な出会いだろう。
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