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天使が来た日②

「ノア、君にプレゼントがあるんだけど貰ってくれるかな?」 紅茶をごくごくと飲み干したノアは、口元を手で拭っていた。 紅茶を飲むのは初めてだと言っていたが、気に入ってくれたようで、何度もお代わりを催促してきた。 「満足したかな?」 ノアはこくりとまた頷くだけ。 「ほら、開けてごらん」 四角い大きめの箱を手渡し、開けるように指示すると、ラッピングをビリビリと破っていった。 少しノアの性格を垣間見れたような気がする。 「ビリビリ破るの楽しいかい?」 「……」 こくんと頷き、少し口元を緩ませて箱を開けた。 チェックのサスペンダー付きショートパンツと白いポロシャツ。 シンプルではあるが無難でいいと思う。 ノアは何かに気が付いたようだ。 これって…と言いたげな顔を見て、俺はニヤリと笑う。 「着てみようか。絶対似合うよ」 そう言うと、すぐに目の前でパンツ1枚になった。 言葉が無くても、行動や仕草で感情が何となく分かる気がしてきた。 「君が何歳なのか分からなくて、サイズの目安がつかなくてね…着心地はどう?その様子だと大丈夫そうだね。こっちに鏡があるから見てごらん」 2階へ上がる階段の踊り場に取り付けられた大きな鏡に連れて行き、新品の服を着た自分の姿を見せる。 「可愛いよノア」 頭を撫で、鏡越しに笑いかけるとノアの頬が薔薇のように赤く染まった。 やはり「エノク書」通りだと笑ってしまう。 「後ろもちゃんと見てごらん」 後ろも見るように言ったのは、サスペンダーに装飾として翼を取り付けたからだ。 後ろを確認するノアはとても嬉しそうに何度も振り返って見ている。 「本物の翼をあげることは難しいけれど、こうしてれば、ちゃんと天使になれるだろ? 元より俺は、ノアがノアであったら天使かどうかなんて気にしないけどね」 「……」 ノアと初めて出会った時、チラリと見えた背中が忘れられなかった。 あの館に来てからの記憶しかないと聞くし、言葉は話せないし。 余計にこの子は過去に何があったのだろうかと考えてしまう。 でも、今はそんなことを考えるのは野暮だろう。 今の彼を愛することが俺ができる最善の行為だ。 ノアは俺の元へ来て新しく名前を与えられた。そして居場所も。 過去はなくても今から新しい自分の物語を紡いでいけばいい。 たくさん紡いでいけば、振り返ると過去ができるはずだ。 「ははっ、相変わらず俺はロマンチスト過ぎて笑ってしまうよな」 そう独りごちつつ、迷子ひもに付いているような小さな翼だけれど、喜んでくれてホッとした。

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