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第86話

「………………っ!」 「…朱雨?どうした……」 「どうした?じゃないですよ!」 リビングの扉を勢いよく開け、ソファに座っている奏多さんに迫る 急に俺に怒鳴られた奏多さんはなにがなんだかわからない、という表情で俺を見上げていた しばらく奏多さんを睨みつけていると、俺に遅れて部屋へと来た冬馬さんが慌てた様子で俺らに駆け寄る 「な、なにしてるの!朱雨くん!」 冬馬さんに引き剥がされ奏多さんが俺の手から離れる 掴みかかろうとする俺に、冬馬さんが必死に抱きつき動けないようにする だが冬馬さんに抱きつかれ、動きを制限されてもなお、俺は奏多さんを睨みつけていた そんな俺を呆れたように見つめる奏多さんがするりと優しく頬を撫でる 「どうした、朱雨 そんなに怒って……お前らしくない なにがあった?」 栗色の瞳に優しく見つめられ怒りが静まっていくのがわかる 頬を撫でる手に擦り寄りながらポツリポツリと掴みかかった理由を吐く 「だって…………」 「だって……なに?」 「……………………」 「しゅーう、わかんねぇだろ?膨れてるだけじゃ」 頬を撫でていた手はいつの間にか俺の手を掴んでいた 優しく手を引かれ、その勢いのまま奏多さんの腕の中にすっぽりと埋まる すぅ…………と息を吸うと、落ち着く匂いが鼻に広がる へなぁ……と力の抜けた体を奏多さんに完全に委ねながら、拗ねた口調で俺は続けた 「だって、玲を傷つけた………………」 ぶすっ……とした顔のまま奏多さんを睨みつけるとキョトンとした顔の彼が俺を見下ろす しばらく無言が続き固まっていると斜め後ろから、ブハッ!と吹き出す音が聞こえた 音のした方を振り返ると冬馬さんが肩を小刻みに震わせていた くくっ、と笑ったあと優しい笑みで俺を見つめてくる冬馬さん 笑われていることに苛立ちを感じ、静まった怒りがまたこみ上げてきた 「な、なにがおかしいの!」 「だって…………ふふっ」 「笑ってやるなよ…とうま………ぶふっ」 しまいには奏多さんまで笑いだす始末………… 怒りが頂点に達した俺はボカボカと奏多さんを殴りながら文句を言う 「だから!なんなのさ!」 ムスッとしたままの俺を涙目で見上げてくる奏多さんが肩を揺らしながら、俺に語りかける 「だって、それって玲ってやつが好きだってやっと自覚したってことだろ?」

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