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Ⅱ:2

 栗原さんは、相変わらずの無表情で治療室に入って来た。  俺は既にパイプ椅子に座っており、栗原さんの後ろから共に入って来た担当医はすぐ隣のパーテーション裏へそっと姿を消す。 (さてと…直ぐに終わるかな)  担当医の声になっていない声がひっそりと聞こえ、俺は僅かに視線を下げる。  その視線は手入れの行き届いた革靴をとらえ、目の前に栗原さんが立ったことを教えてくれた。  見上げる様に顔を上げれば、予想通り美麗な瞳は俺を見下ろしており、直ぐに次の工程へと移ろうとしていた。 「ねぇ、栗原さんは第六感とか信じる?」  感情の無い瞳を見つめながらそう言えば、俺の顎を捕えようとしていた栗原さんの手がピクリと跳ねた。 「聞いたことないですか? センチネルに第六感が生まれるって話」 「……何か、あった?」  栗原さんは信じるとも、信じないとも言わずにそれだけ口にした。僅かに瞳の奥が揺れた様な気がしたが、これだけ近くに居るのに不思議と栗原さんの心の声は俺に届かない。  その代わりとでも言いたげに、先ほどから担当医の心の声が流れ込んでくる。 (どうしよう、止めた方が良いかな) (第六感、光くんにも出ちゃったのかな) (どうしよう、どうしような、栗原君はどうするかな)  優柔不断でうるせぇ…。けれど考えることを止めろなんて言えないし、心が読めるとも言いたくなかった。

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