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Ⅱ:終
「ん"ん"ッ! んっ! ん…やめっ!」
みちゃっ、と厭らしい音を立て漸く放した唇から飲めなかった唾液が溢れるが、拭う余裕も無く栗原さんから逃げる様に体を捩る。
だが、俺を掴んだ手は逃すまいと更に力を強め、絡み合った足が縺れてふたりで横倒しになった。
「いっ、やだ! 嫌っ! ンぅうっ!」
「く…栗原くん!」
覆い被さられて分かる体格差。背は高いと知っていたが、甘いマスクに似合いの細身だと思っていた体には明らかに俺よりも男らしい力を携えてる。
両手首を取られ、からだ全体で押さえつけられれば抵抗の余地なんて俺には残されて無かった。
オロオロと周りを彷徨く主治医も、全くもって何の役にも立たなかった。
ハァハァと荒い息をしたまま、解放されたのに動けない俺はまだ床の上に転がっている。
暴れたお陰で服は乱れ、口の周りは溢れた唾液で濡れそぼっているんだ、これじゃあまるで…そう、まるで…。
「こんなの、レイプと一緒だ」
栗原さんは反応しなかった。乱れたスーツを黙々と整え、主治医に向かって口を開く。
「来週から、二週間に一度でしたね」
「え、えぇ…そう、ですが」
「このまま週一にして下さい。この子は放っておくと危険です」
頭にカッと血が上った。
「俺は来ないからな!? もう二度と、病院には来ないッ!!」
「君が来ないなら行くまでだ」
「はっ!?」
「治療の為だ。主治医が同行すれば君の家に行くことなんて簡単なんだよ」
俺は乱れた体を跳ね起こし栗原さんに飛びかかる。
センチネルを覚醒させてひと月、俺はもうこの体質に根を上げていた。
襲い来る激痛と吐き気、細胞が腐る感覚。
それを浄化されていく感覚は嫌いではなく、寧ろ気持ちよくさえあった。が、それが第六感を引き起こすのなら話はまた別だった。
「ざっけんじゃねぇよ! 俺は要らないって言ってんだ! アンタらに俺の気持ちが分かんのか!? どんどんヒトじゃなくなってく怖さが分かんのかッ!!」
整えたはずの胸元のシャツを掴み上げる。そうして睨みあげても、栗原さんの表情は変わらない。
「分からない。理解出来るとも思ってない、俺はセンチネルじゃないから」
「だったら!」
「それでも、俺は止めさせない」
胸元の俺の手を意外にも優しく外すと、落とすのでは無く握り直した。
見つめ合った栗原さんの瞳は、揺れているのに強い光を放ってた。俺に伝えたいことがあるみたいに、ゆらゆらと揺れながらもそれは一直線に俺へと向かっている。
「狂わせたりさせない。絶対に」
それでも、やっぱり俺には栗原さんの心の声は聞こえて来なかった。
第二章:END
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