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Ⅲ:2

◇  その日は朝から不調だった。数日前には栗原さんから治療を受けたはずなのに、起き抜けから強烈な頭痛と眩暈に襲われた。何とか手持ちの頭痛薬や、センチネル専用のその場凌ぎ的な薬を飲んで持ち直したが、これでは次の治療日まで持たないかもしれない。  どうしてだろうと不安に思いながらも、ここ最近出張に出ていた店長が今日は戻ってくると聞いて、自分に喝を入れてバイトに出た。 「店長、お久しぶりですっ」 「おう、体調はどうだ?」 「はい、取り敢えずなんとか…でも今日は何か」 「勘弁してくれよな」 「……え?」 「ん? どうした?具合悪いのか?」 「………」  聞こえた言葉に耳を疑うが、目の前の店長を見ても可笑しいところは何もない。いつも通りの面倒見のいい店長だ。 「いや、あの…大丈夫です」 「そうか、なら良かった。あんまり無理はすんなよ」 「はい…」  少し前の俺だったら、単なる聞き間違いとして流していたに違いない。けど、今の俺には分かってしまう。 『勘弁してくれよ』  その言葉が、単なる聞き違えなんかではなく…そう、彼の心の言葉であることを。  それを知ってしまった俺は、見事に仕事をしくじりまくった。  品出しの位置を間違え、期限切れを引き損ねる。物は床にバラまくし、夜中の数少ないレジを打ち間違える。 「オイオイ、お前本当に大丈夫か?」 (何やってんだコイツ、ふざけんなよ) 「やっぱまだ本調子じゃないんじゃねぇの?」 (何がセンチネルだよ気持ち悪ぃ) 「もし辛ぇなら早めに言えよ、無理はすんな?」 (ただのポンコツじゃねぇか、使えねぇ) 「はい……有難うございます」  昔から要領の悪い俺は、罵られる事になんか慣れてるはずだった。  でも、辛くて仕方なかった。  泣きたくて仕方なかった。  だって、兄のように思ってた。  親でさえ厄介者扱いする俺を、強面だけど笑顔で受け入れてくれたんだ、店長は。なのに…まさか心の中ではあんな風に思われていたなんて…。 「店長、あの…やっぱり今日は帰らせてください」  そんな俺への返答は、口から出るよりも先に心が答えた。 『ふざけんな、役立たずのフリーター野郎』

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