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6 思い出(亮太)
コンチとは高校で知り合った。
俺が沢村、あいつが坂本だから入学式で俺たちは隣同士だった。
校長の話を聞き流しながら、ぎこちない挨拶をした。
俺もコンチもお互い同中の人間がいなかったから入学式で知り合いができたのは心強かった。
俺にとってコンチは一番の友達になった。
はじめて恋心を抱いた相手もコンチだった。
昔から人を好きになった経験が無かった。クラスメートの男子が持ってきたグラビア雑誌を見ても魅力を感じなかったときに自分のセクシャリティに気がついた。惜しげもなく愛を注いでくれる両親に申し訳ない気持ちもあり、当時は悩んだりしたけど高校に入る頃には折り合いをつけられるようになっていた。
あぁ、俺は男が好きなんだって。
もやもやした気持ちを抱えたままコンチと一緒にいるのは辛かった。何気ないしぐさでどぎまぎしてしまう自分を少しずつ嫌いになりそうなことに気がついて、いっそ告白して、砕けてしまおうと家に呼び出して流行りのゲームを二人でやりながら、何気ないふりをして、でも実はものすごい勇気を出して。告白した。
そしたら、コンチは。コンチは「おれも。亮太のことが好きだ」って…そんな奇跡がまさか…って思った。人口の数%しかいない人間がこーんな小さな田舎の町の俺の部屋に二人もいるんか…ってビックリした。
コンチはそれから色々なことを教えてくれた。
お兄さんの友幸さんとは半分しか血が繋がっていないこと。
コンチの両親はそんなお兄さんと自分がうまくいっていないと思っているがそれは自分のせいだということ。
コンチはお兄さんへの恋心で自分がゲイだと自覚したそうだ。
そして、コンチはお兄さんへの気持ちを乗り越えた。
そんな、普通だったら話せないことまで話してくれた。
コンチは最後にこう言った。
「こんな、こんな俺でも亮太は俺を好きと言ってくれるのか」
うるんだようにも見える瞳から目が離せなかった。ゆっくりうなずいた俺を見る。
幸せだ。間違いなく。幸せだった。
高校を卒業し大学に進んだ俺は実家を出て独り暮らしを始めた。
コンチとは結局うまくいかなかった。
初めての恋人で俺は一人舞い上がっていたけどコンチは結構冷静だった。
坂本家のごたごたに巻き込みたくない。
そう言って別れを切り出された。
オレも一緒に頑張るから。とか、カッコつけたこと言えたらよかったのに、
俺じゃ力不足なのか?って疑問ばかり浮かんでしまった。悔しかった。
納得は出来なかった。できなかったけどコンチには俺じゃダメなんだと諦めた。
お互い別の大学に進むことが決まっていたから別れた後の気まずさがなかったのは救いだ。
両親は大学進学で一人暮らしをする俺のために惜しげもなく支援をしてくれた。一人息子の俺に学費も生活費もすべて出してくれていたが、将来への漠然とした不安とほんの少しの好奇心からアルバイトを始めた。
それが、ゲイバーのウェイターのアルバイトだ。
実る前に腐り落ちた初恋への当てつけもあったかもしれない。
夜間でしかも酒を扱う仕事だったので、大学の仲間より給料は格段によかった。一年ほどその仕事を続けたあと俺はバーのお得意様のお店に誘われ、ショーパブでダンサーをするようになった。
一人っ子で一通りの習い事をさせられていたおかげで踊ることはそんなに難しいことじゃなかった。
クラシックバレエ、ポップダンス、社交ダンス、ジャズダンス…etc…エトセトラ…。
きらびやかなお姉さん(お兄さん?)方と化粧をしてスネ毛ツルツルで踊ると自分が自分じゃないみたいで現実を忘れられた。
大学生の自分とダンサーの自分がどんどん入れ替わっていって、大学で勉強したかったはずのあれこれよりも、パブの今日のセットリストの方が大切に変わった。
周りが就活を始めても俺はショーパブのダンサーのままだった。就職もせず大学を卒業した俺は本格的にショーパブでダンサーをする傍ら週2でスーパーのレジ打ちのバイトもするようになった。もちろん給料はパブのほうがいいから趣味みたいなもんだ。
こんな仕事についていても、まだ普通にしがみついているのかもしれない。お店で出会った人と一晩だけ…なんていうのをもう何回も何十回も繰り返しているのに。
揺れるレジ袋を提げ夜道を歩きながら考えた。明日はパブの仕事だ。
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