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第3話
俺の初御披露目は4歳の頃だった。
シグナム家の長男として、実際は姉の初御披露目のおまけ程度に紹介された。
王都一のダンスホールでいろんな貴族達が話に花を咲かせていた。
よく聞くと自慢ばかり話している。
ヒロインはまだこの王都に来ていないからまだ安心だろう。
父親に連れられいろんな人に挨拶していた。
正直とても退屈だが、家族と使用人以外を見るのは初めてで落ち着きなくキョロキョロと周りを見ていた。
姉は自由な性格で何処にいるのか目線で探していると同じ歳の男の子に囲まれて下僕を増やしていた。
…姉はとりあえずいいかな。
一通り連れ回されてヘトヘトになり外に出た。
初めてあんなに人を見たから人酔いしてしまった。
外は冷たい風が吹き、暗い空には無数の星が散りばめられていた。
深呼吸すると落ち着いてきた。
庭を歩いていると小さな人影が見えた。
しゃがんでいるその人影はなにかを持っている。
赤黒い髪が揺れている。
近付いてみて分かった…寝ている。
昼はぽかぽかの日射しだが夜は寒い、風邪を引いてしまう。
赤黒い髪、何処かで見た気がするがとりあえず肩を揺する。
…なかなか起きない、こういう場合どうしたら良いんだろう。
バシッと頬を叩いてみる。
さすがに起きたのか目を丸くしてビックリしていた。
「ごめんね、痛かった?でもこんなところで寝てたら風邪引いちゃうよ」
「…きみ、だれ?」
寝起きだからかボーッとしながら俺を見ていた。
俺より年上だろうか、少年は周りを見ていた。
無意識に寝ていたのだろうか、危ないだろ…それは…
少年が手にしていたものを見ると、青い薔薇の花束だった。
少年は立ち上がり、薔薇の花束を俺に押し付けた。
俺はわけも分からず受け取る。
「あげる、起こしてくれたお礼」
「大したことしてないよ」
「小さいのに頼もしいね」
少年はニコッと笑った、とても美しい少年だと思った。
彼に悪気がないのは分かっている…しかし小さいは余計だ…そりゃあ年齢に差があれば小さく見えるのは当たり前だ。
頬を膨らませて拗ねていると少年は何故俺が怒っているのか分からず首を傾げていた。
薔薇の花束はいい香りがした、でも何故この花束を持っていたのだろうか。
少年は再び座るから俺も横に座る。
少年を見ると少年も俺を見ていた。
「この花、いいの?」
「いいの、俺の家にあったものを持ってきただけだから」
「そうなんだ」
会話が続かない、初対面の相手にどう話したらいいか悩む。
少年は空を眺めていた。
とりあえず俺も空を眺める。
キラキラと光る空、生前の時テレビ以外で見た事がなかった空が今目の前に広がっている。
嬉しい筈なのに、なんか切ない。
空に向かって手を伸ばすとキラッと流れた。
「あっ!流れ星!」
「本当だね」
少年も見たのか自然と声が上がる。
流れ星ってお願い事を三回言わなきゃならないんじゃなかったっけ?
あんな早い流れ星、一回だけで精一杯だ。
少年は目を瞑っている、なにかお願い事をしたのだろうか。
もう流れ星は見えないが俺も目を閉じてお願い事をしていた。
とりあえず普通に恋愛して普通に結婚して普通の家庭を築けるならそれ以上は望まない。
隣から息遣いが聞こえた。
「だから寝ちゃだめだって!」
「いたっ…」
頭をチョップして起こすと今度は一発で起きてくれた。
お願い事をしていたわけじゃないのかい!とジト目で少年を見る。
すると遠くから「アルト様ぁー!!あーるーとーさまー!!」と大声が聞こえた。
グランの声だとすぐに分かり心配してやって来たのだろう。
立ち上がり少年に頭を下げて「もう外で寝ちゃダメだよ」と言いグランのところに走って行く。
グランは涙目になり外を走り回っていた。
「グラン、ここだよ」
「アルトさまぁぁぁ!!!!」
グランに声を掛けると物凄い早さで走ってきて俺を抱き締める。
ぎゅむっと強すぎる抱擁に苦しくなる。
グランには外で空気を吸ってくると一言言えば良かった。
ポロッと薔薇の花束を地面に落としてしまった。
「あっ!!」
「アルト様、なにか落ちましたよ?」
グランが俺のにおいを堪能しまくり冷静になり、俺を降ろした。
そして地面に落とした花束を拾った。
俺は花束を飾る花瓶が家にあったかグランに聞こうとしたがグランの異変に気付いた。
グランは花束を拾う格好のまま固まっていた。
その格好、腰痛めそう…20代でも油断出来ないぞ?
どうしたのかとグランを下から覗き込む。
グランの顔が真っ青だった。
「あ、アルト様…これ誰に貰ったんですか?」
「さっき知り合った男の子に貰ったんだ」
「お、おと…こ?アルト様が男に…僕の可愛いアルト様がぁ…」
何だかよく分からないがグランが花束を握りしめていて花が枯れちゃうとグランから花束を救出した。
まだなにかぶつぶつ言ってるグランはほっといて、俺はさっきの男の子の事を考える。
やっぱりどっかで見た事がある、大事な事だと思うんだが…なんだっけ?
俺が彼を思い出すのはそれから3日後の出来事だった。
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