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第2話

累計100万本以上の大人気乙女ゲーム「口付けの契約」は異世界リーゼで巻き起こる愛と魔法の物語。 主人公のリンディ・ヴィータは小さな村のお姫様。 魔法が当たり前で魔法の力によりランク付けされていてリンディは最低能力ランクのZだった。 落ちこぼれリンディは能力ランクを隠し密かにお姫様修行をしながら暮らしていたら上ランクの騎士集団を見る、どの人物も見目が良く女性達の憧れの存在だった。 落ちこぼれお姫様のリンディが絶対に関わりあいにならないと思っていた。 しかしリンディの下宿先が突然火事に遭い住む場所がなくなってしまった。 途方に暮れるリンディに一人の青年が声を掛けた。 「俺達の屋敷に来ればいい、空き部屋なら沢山あるから」 その人物は上ランクの魔法騎士団の寄宿舎の管理人だった。 リンディは決して関わる事がなかった最高ランクの魔法騎士達と共同生活をする事になった。 俺様ワイルド騎士かリンディにだけ優しい美しい福団長かリンディを導く謎の管理人かいつも眠そうでやる気ないが王都最高ランクの騎士団長の幼馴染みか選ぶのは貴女。 そんなゲームのオープニングのようなものが脳内に流れてきた。 あー、確か妹が貸してくれた乙女ゲームのオープニングだったっけ。 死ぬ前にやっていたから鮮明に覚えている。 最後にクリアしたのは隠しエンドがあった幼馴染みルートだった。 やってる途中で妹が見舞いに来て、一番好きなキャラと教えてくれた…その時にいろいろとゲーム用語も教えてもらった。 幼馴染みルートは一番人気があるらしく三作の中の一作が丸々幼馴染みだけのゲームが出たほどだった。 確かにいつも眠そうだがいざとなったらヒロインを助けて、それに王都一強いランクだった。 ヒロインを姫と呼び姫騎士と言われていたっけ。 でも幼馴染みルートで出てくる悪役姉弟はあまり好きじゃない。 二人の仲を引き裂こうとするから、姉が幼馴染みを好きなのは分かるがそれにしてもヒロインへの虐めが物凄く過激になるところは目を覆いたくなった。 最後は幼馴染みにより二人は殺されてしまう。 …和解があれば良かったが、あれほどの事をしたから仕方ないのかな。 なんでこんな事を今さら思い出すのだろうか。 転生したら忘れるというのに… 視界が眩しく光る、ギュッと目を閉じる。 そして恐る恐る目を開けた。 顔を覗き込む見知らぬ顔があり驚いて目を丸くする。 「待望の世継ぎだ」 「あなたに目元にそっくりね」 「口元は君に似ている」 男女がそう話していた。 真っ白な天井が見えるという事は病院か? じゃあもしかしたら死んだと思っていたが生きている。 少しつり目の女性に優しく抱っこされる。 目線が可笑しい、これじゃあまるで赤ちゃんだ。 女性はふふっと笑った。 「この世界を支配する器になりなさいね、アルト」 「言葉が喋れるようになったら下の魔法使いを虐げる方法を教えてやるから早く大きくなれよ!」 豪快に父が笑う、髭濃いなぁ… じゃなくて…何だか悪役みたいなセリフに赤ちゃんだが引きつった笑いになる。 そうか、俺は転生したのか…この二人は両親…そして俺は生まれたばかりの赤ん坊だ。 魔法使いって、冗談に聞こえないし当たり前のように言うが…それにアルトって…まさか、な…だってあれは作り話だし… そしてもう一人いる事に気付いた、父が抱っこしている黒髪の可愛らしい赤ちゃんだ。 1つ違いだろうか、まだ言葉が話せないようだった。 赤ちゃんはジッと俺を見ていた。 「ヴィクトリア、貴女の下僕よ」 母よ、その紹介の仕方はいかがなものだろうか。 やはりヴィクトリア、きっと姉だろう。 アルトとヴィクトリア…まるっきりあの乙女ゲームの悪役姉弟の名前だった。 まさかそんな、ゲームの世界に転生とかあり得るのだろうか。 でも実際転生しているからあり得るんだろう。 姉にバシバシと笑われながら顔面を叩かれながら思う。 あれ?もしかして、生まれてすぐに死亡フラグが立ってる? ゲーム通りの世界なら幼馴染みに殺される、でもそれは幼馴染みルートだけだし…他のルートなら悪役姉弟は出てこない。 ならまだ絶望するのは早い、姉にヒロインと幼馴染みと関わらなくてはいいんだ。 ついでに姉をいい人に更正できたらいいんだけど… とりあえず健康に生まれて良かったと、ホッとした。 でも前世の記憶が残ってるってなんか変な気分だ。 この異世界リーゼは生まれながらにして必ず魔法が使える魔法社会だ。 魔法にもランクがありSSS,SS,A,B,C,D,Zまであり、一般人はD,Zが圧倒的に多い。 そしてヒロインには秘めた力があり、それはSSSからAまでの上ランク魔法使いを騎士にする口付けの契約という魔法がありキスをされた騎士は普段以上の力が出せるらしい。 ルート外のキャラともキスをして契約してヒロインはルートのキャラと結婚して立派な姫になるというのが大まかな内容だ。 そして姉のヴィクトリアはAランク、上位魔法使いになるが弟のアルトは落ちこぼれのZ…だからゲーム内でも少量の魔力しかなく周りにバカにされ姉にコキ使われている。 それは多分ルート外れても変わらないだろう。 そして0歳の時に受ける魔力属性検査でとんでもない事が分かった。 「この子の魔力は0だね、つまり魔法は使えない」 両親と俺は開いた口が塞がらなかった。 今度こそ誰かの役に立ちたいと転生したのに、何の役にも立たない人間になるなんて… せめて、せめて姉を死から助けよう…助けられたと思わなくてもいいから前世の記憶を持ち生まれた意味にしたかった。 0歳にしてその事を決意した。 両親は魔力なしなんて異端な存在は我がシグナム家の恥になると医者を脅して診断書にランクZと書かせた。 ゲームのアルトは微量だが魔力を使う描写があったからZくらいはあっただろう。 その時点でゲームとは展開が何処か違うのに魔力なしにショックを受けていた俺は気付かなかった。 両親は上ランクの姉を世継ぎにする事に決めてとても可愛がっていた。 俺の世話は使用人がやっていた。 期待されない事がこんなに悲しい事だったなんて知らなかった。 普通の家庭なら初めて言葉を話す時両親はとても喜ぶ筈だ。 前世でも病院の中で育ったが、パパママと呼んだ日は泣いて喜んでくれた。 しかし今の両親は俺に見向きもしない。 初めて話した言葉が「グラン」だった。 グランは俺の世話をしてくれる若い使用人だ。 たまににおいを嗅いでくる変態だが、とても優しい。 グランは感動して泣いていてすぐに両親に報告しようと俺を抱っこして両親がいる部屋に向かった。 両親がいたのは姉の部屋だった。 屋根裏部屋の俺の部屋とは違い姉の部屋は広く、おもちゃやぬいぐるみがいっぱい置いてあった。 きっとねだれば何でも買い与えていたのだろう。 俺は何一つ買ってもらった事がない。 ぬいぐるみもグランが手作りで作ってくれた夢に出てきそうな呪いの人形だけだし(本人はくまさんのつもりらしい) 服は既婚者の使用人の息子のお古でヨダレとかで汚れているものだった。 魔力なしなだけなのにこんなに差があるのか、それが魔力ランクがこの世界の全てなんだなと嫌でも分かった。 「アルト様!僕の胸に飛び込んで下さい!」 行きづらいが、歩く練習のためだ…ぷるぷる小鹿のような足を立たせて両手を広げて待つグランの元に歩く。 グランは嬉しそうに俺が歩く姿を眺める。 グランが父親ならきっと幸せだったんだろうな。 到着してギュッと抱き締める腕が苦しいが、嬉しかった。 両親に歩いた事を報告すると張り切って両親がいる姉の部屋に向かう。 また喋った時みたいに興味ない感じで「お前に任せる」とか言われるのにと苦笑いする。 この時の俺はまだ2歳だった。 姉の死亡フラグを回避するためには姉が18歳になるまで準備をしなくてはならない。 だって姉は1つ違い、俺は一年だけ姉と離れる事になるからその時の姉は野放しになる。 どうにか姉をヒロイン達に近付けさせてはならない。 そのためにはグランが鍵となる事は既に俺は知っていた。

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