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第10話
入学式が終わり、皆でポアロに向かった。
優しかったのはリカルドとルカだけだったみたいで俺を見ると皆遠くから眺めてヒソヒソ話をしていた。
何人かリカルド達に近付き「コイツ、悪い奴だから一緒にいない方がいいよ」と言っていたがリカルドとルカは無視して俺に話しかけてくれた。
二人が自分のせいで虐められたらどうしよう…と暗い気分のままポアロに着いた。
色鮮やかでいろんな形のお菓子がいっぱいあった。
生前でも医者に止められていてテレビでしか見た事がないお菓子が沢山並んでいる。
今はあまり甘いものを食べたい気分じゃないが、ガリュー先生は甘いのが好きだからなにか一つお土産に買っていこうかな。
「んぐっ!」
「ほらほら元気出せよアルト!最初は皆珍しがるかもしれないけど、すぐに慣れるよ!」
リカルドに棒状のなにかを口に入れられた。
甘い味が広がり口から出す。
ピンク色の棒だ、これってもしかして飴?
ペロッと舐めるとやはり甘い。
これが飴なのか、美味しい。
励ましてくれたリカルドにお礼を言い、リカルドとルカにオススメのお菓子を聞いたりして買い物をした。
ポアロの店主のお婆さんもとても優しそうな人で通おうかなと考えていた。
「おい、そこの一般人…退けよ」
買ったお菓子を見せ合いっこしていたら威張っている声が聞こえた。
俺達はポアロの近くの公園のベンチに座っていた。
邪魔にならない筈なのにその威張る人物は俺達のベンチを蹴飛ばした。
俺達は驚いて立ち上がる。
ソイツはいかにも目付きが悪い少年だった、後ろには取り巻きなのかひょろい少年と太った少年がいた。
リカルドは俺とルカの腕を引き小さな声で話した。
「関わらない方がいい、魔法学園の制服だ」
そう言われ、そういえば自分達とは違う制服だと今更気付いた。
魔法学園の生徒は一般学校の生徒を馬鹿にする子が多いと聞く。
陽向を歩く魔法学園の生徒と日陰をこっそり歩く一般学校の生徒って認識らしい。
関わって変なトラブルは避けた方がいいと俺も思い早く帰ろうと公園を出ようとする。
すると目の前を塞ぐように炎の壁で公園から出れなくなる。
一歩一歩後退る。
「おい待てよ、何処に行くんだ?俺達の公園をゴミに使わせてやってんだ…そのお菓子置いてけよ」
「この公園は皆のものだろ!!」
「魔法学園生徒皆の、な」
リカルドは悔しげに睨む。
2,3歳は年上だろう、彼らは俺達をかつあげしていた。
子供でもかつあげなんてあるんだな。
魔法に自信があるという事は下位クラスではなさそうだ。
……勝ち目はないだろう。
俺達はお菓子を手放すしかなかった。
公園を出ると公園から笑い声が聞こえた。
悔しくて悲しくて、涙が出てきた。
「……決めた」
リカルドが静かに呟き俺とルカはリカルドを見た。
俺を励まし、明るいリカルドの涙を初めて見た。
相当悔しかったのか拳を震わせて唇を噛んでいた。
ルカも見た事なかったのか驚いた顔をしていた。
リカルドは俺とルカの前を歩き振り返った。
その瞳に強い意思を感じた。
「俺、騎士団に入る!それで…英雄ラグナロクみたいに俺の名前を歴史に刻む!」
「で、でも騎士団は魔法学園卒業生を優先的に入団させていて…一般学校出身者は一人もいないって…」
「だから受けるんだよ!魔法学園とか一般学校とかそんな差別をなくすために、弱くても騎士団に入れるって一般学校の奴らに言いたいんだ!」
6歳なのにリカルドはとても大人びて見えた。
ルカの言葉は本当だ。
一般学校出身者だから受からないんじゃない、一般学校に通う生徒は基本自分に自信がなく弱い事を知っている。
だから騎士団入団試験を受ける者は一人もいない。
リカルドは初めて一般学校から試験を受ける気でいるんだ。
ルカは不安げに俺を見た。
俺は全て知っていた。
「リカルドくんなら大丈夫だよ!絶対騎士団に入れるよ!」
「……ありがとうアルト」
「アルトくん、そんな無責任な事言っちゃダメだよ」
ルカ、無責任な事を言ったつもりはないんだ。
だってリカルドの未来を知っているから、俺だけが知る秘密。
眼鏡を掛けていたから最初は気付かなかったが、思い出した。
リカルドは三作目に出てくる攻略キャラクターなんだ。
その時のリカルドは騎士団員になっていてトーマ達と戦う仲間だ。
だからゲームの通りならリカルドは騎士団に入れる、しかも史上初の一般学校からの騎士だ。
でもそうなると俺と敵対関係になるが、ゲームの二人は出会ってない設定だし…どうなるか分からない。
それでも、リカルドは大丈夫だと思う。
リカルドと俺は手を握り合い笑った。
トーマルートでしか登場しないアルトが攻略キャラのリカルドと友人になっている。
それだけできっとゲームの世界は捻れ始めているのかもしれない。
薄々感じながらも、悪役姉弟のバッドエンドを回避出来ればいいかなって思っていた。
そういえばゲームでルカはいなかったけどどうなったんだろう。
家の手伝いをしていたのかな。
リカルドと俺が距離を縮め始めてルカは複雑な顔をしていた。
「僕の、リカルドなのに…アルトくんばっかり」
その声は風になり消えた。
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