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第9話
キラキラとした眼差しで何度も頷く。
お友達になってくれるだろうか、グランやガリュー先生とは違う同級生の初めての友達。
まずは自己紹介した方がいいだろう、緊張して上手く喋れない。
二人は不馴れな俺のために近寄ってくれた。
ふわふわの子が俺の両手を握り暖かな体温を感じる。
これが、お友達のスキンシップ?
「初めまして、僕はルカ・アンディ!将来は家を継いで農業するの!」
「野菜作ってるの?」
「うん!」
ふわふわの子、ルカは眩しいくらい明るく笑った。
野菜かぁ…将来パン屋を目指すからいろいろとお世話になりそうだ。
それにしても、見れば見るほど女の子みたいだ…男装してる女の子と言われても疑わない。
…実際どうなんだろう。
ルカをまじまじと見てルカは不思議そうに首を傾げていると横から肩を叩かれた。
茶髪のやんちゃそうな眼鏡の少年はニッと笑った。
「俺の名前はリカルド・ライソン、将来はまだ決まってないけど…何とかなるだろ!」
大雑把な性格なのか、リカルドは全く気にしていない顔で笑っていた。
当たり前だがそれぞれ別の性格をしていてアルトとは違う感じで驚いた。
名前と将来の夢を言えばいいのか、緊張する。
モゴモゴと口を動かすと二人はニコニコしながら見ている。
第一印象が大事、ガリュー先生みたいにフレンドリーな感じで話せばきっと上手くいく!
「お、俺はアルト・シグナム…将来はパン屋さんになるのが夢です!よろしくお願いします!」
大きな声でハキハキと、グランに教わったように言った。
目を瞑ってしまったが大丈夫だろうか。
二人の反応が気になるが二人は一言も話さずどうしたのかと恐る恐る前を見る。
そこにいたのは顔を青ざめて固まるルカとリカルドだった。
なんで…なにかいけない事言っただろうか。
心臓がうるさい…嫌な鼓動だ。
「アイツ、シグナムとか言ったか?」
「あのシグナム?マジかよ、恨み買ったら消されちまう」
俺達の会話を聞いていた通りすがりの生徒達はヒソヒソ話していた。
そうか、シグナム家はゲームでは度重なる悪事を働き王都で悪名高い貴族だったんだ。
それは息子の俺も同じだ、悪い事をしていなくても親の罪は自分の罪だろう。
ゲームのアルトは友人もいなく一人ぼっちだったから姉の悪事に加担して幸せなヒロイン達を攻撃していたんだ。
その結末を知ってて一人ぼっちでも姉を止める余裕があるから俺は闇落ちしないが、友達は諦めた方がいいかな。
俺の楽しくなる筈だった学校生活は早々に終わった。
「ごめんなさい、怖がらせて」
「待って!」
これ以上不快にさせたくなくて二人の間を通り過ぎようとしたら肩を掴まれた。
リカルドが俺を引き止めた。
何をされるか分からない、虐められるのだろうかとビクビクしながらリカルドを見つめる。
リカルドは真剣な顔をして後ろにいるルカを見た。
ルカはまだ怯えているのか下を向いて俺と目を合わせようとしなかった。
当然だが、とても寂しかった。
「ルカ、彼が誰であろうと関係ないよ!何も悪い事してないんだから堂々と胸張って俺達の友達だって名乗りなよ!アルト!」
「……いいの?俺が友達でも」
リカルドの笑顔が眩しくてポロポロと涙を流した。
慰めるように優しく頭を撫でてくれた。
本当に?本当に…友達だって思っていいの?
ちょんちょんと服を引っ張られて見るとさっきまで目を合わせてくれなかったルカがいた。
ルカは少し考えてちょっと身長が俺の方が高いから見上げた。
その瞳は俺と同じように目が潤んでいた。
「ごめんなさい、僕…君に酷い事した…友達になりたくて声かけたのに」
「ううん、いいよ…それが普通なんだし」
ルカは首を横に振った。
そして片手を出してきた。
俺は恐る恐る手を握った。
それをリカルドが見てニコニコしていた。
俺に初めて友達が出来た。
絶望だと思っていた学校生活に光が差した。
単純だけど、受け入れてくれて嬉しかった。
「よし!じゃあ仲直りの記念にポアロのところ行こう!」
「リカルドは本当に好きだね」
「ぽあろ?」
ルカとリカルドだけで話が盛り上がりよく分からない俺は首を傾げた。
ぽあろってなんだろう、聞いた事がない。
ちょっと世間知らず過ぎただろうか、これから世間を学べばいいかと思っていたが先にグランにいろいろ聞いとけば良かったと後悔。
リカルドの話によるとポアロとは生前の世界で言う駄菓子屋らしい。
お菓子はグランが買ってくるケーキや菓子パンしか知らず普通の子供は何を食べるのか気になった。
お小遣いは不自由しない程度にもらっている。
グランがいない今、自分の欲しいものは自分で買えって事だろう。
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