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第8話

姉がグランを連れて魔法学園に入学したのは去年の事だ。 今年は俺が一般学校に通う事になっていた。 真新しい制服に袖を通した。 息子の初めての制服姿は着替えの手伝いに来たメイドが見た。 両親は一度も見ていない、姉の入学には張り切って普段表に出ないのに入学式に来たり…勿論俺の入学式には誰も来ない。 でももうそれには慣れた。 そんな事より今物凄く浮かれている自分がいる。 生前は病院から出た事がなく、ずっと行きたかった学校にやっと行ける。 この世界には幼稚園とかなかったからずっと6歳まで我慢していた。 鏡の前でポーズを決める、やはり嬉しい…健康体は… 「おっ、ませてんねー坊っちゃん」 「ガリュー先生、坊っちゃんはやめてください」 部屋にノックもなく入ってきたシグナム家専属のお医者さんのガリュー先生。 姉が風邪を引いた時とかよくお世話になっていた大きな病院の有名な医者兼科学者らしい。 数ヶ月前に俺は高熱を出して今はグランもいないしどうしようかと思っていた時にガリュー先生が何も言わず見てくれて今ではすっかり治った。 それからガリュー先生とは友達のように親しくしてくれた。 グランがお父さんならガリュー先生はお兄ちゃんみたいなものだろうか。 しかし、ガリュー先生はゲームでは見た事はない…シグナム家の医者だし裏設定でちょろっとあったのかもしれない。 「それにしても傍に居てって可愛くおねだりしてきた坊っちゃんがもうお洒落に目覚めるなんて」 「お、俺だって男だから!」 高熱の時、病気がトラウマになり怖くて怖くてついガリュー先生の白衣を握りしめて泣いた事があった。 その時ずっと傍に居てくれた優しさはずっと忘れないだろう。 だからその金髪ピアスをどうにかした方が良いと思う。 そのせいでなんかいい加減なチャラい医者に見える。 グランはずっと俺の傍にいたから不定期に来るガリュー先生の事は知らないんだろうな。 知ってたら怒りそう、グランはチャラチャラした奴は嫌いだから… 「頑張れよ入学生!彼女出来たら真っ先に俺に教えろよ、いろいろ教育してやる」 「ガリュー先生ナンパ術しか知らなさそう」 「言うようになったなこのませがき!」 ガリュー先生にせっかく綺麗に整えた髪をぐしゃぐしゃにされた。 何とか髪ぐしゃぐしゃ攻撃から逃れて膨れた顔で髪を整える。 グランがいなくなった数ヶ月は本当に寂しくてついグランを目で探していた。 ガリュー先生が来てから明るさは少し戻ったがやはりグランがいないと寂しい。 グランはちゃんと姉を守っているのだろうか、確認出来ないのはもどかしいがグランを信じよう。 ガリュー先生に見送られカバンを抱えて家を出た。 庭から外に出た事がなくて賑やかな街並みにワクワクする。 いろいろ見て回りたいが今は学校に行かなくては行けないと学校の地図を頼りに歩く。 ふと街の中心に大きな建物が見えた、西洋の城のようなそこは魔法学園だった。 ゲームのアルトは魔法学園卒業生だった、今と違う。 姉と同じ学校に行きたかった、生前妹と同じ学校に行きたかった思いがあるからだろうか。 …でも、こんな落ちこぼれでも通わせてもらっているんだから贅沢言ったらバチが当たるかもしれない。 魔法学園に背を向けて走った。 今はこんなに元気に走れる…感謝しかない。 一般学校は正直魔法学園の半分以下の大きさの小さな建物だった。 生徒も少ないのかあまり新入生らしい人は見かけない。 そりゃあそうだ、一般学校卒業なんて人に言えないもんな…自分は下位ランクですって言うもんだし… 虐められてもいいから魔法学園卒業生だって堂々としていたいのだろう。 俺には選択肢がないからその悩みはよく分からない。 とりあえず校舎の中に入り職員室行けばいいかな?とか悩む。 「君、新入生?」 キョロキョロしていたのが不審者っぽかったのか声を掛けられた。 後ろを振り返るとクリーム色のふわふわの髪の可愛い少女と茶髪が腰まで長くて一つにまとめた眼鏡の少年がいた。 よく見るとふわふわの子ズボンだ、男だったとは驚きだ。 同じ新入生だろうか、二人共学校のパンフレットを持っている。 同じ歳の子を見るのは初めてでまじまじ見てしまう。 不思議に思ったのか二人は目を見合せて首を傾げた。 「えっと、迷ってるみたいだったから」 「俺達新入生なんだけど、君もだろ?」

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