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第13話

魔法学園と一般学校はエスカレーター式の全寮制共学校だ。 主な授業は一般学校は生前の世界と変わらない勉強、魔法学園は魔法を使った特別授業だ。 だからエスカレーター式とはいえ中等部入学試験は困難だと言われている。 外部には内容は明かされていないが、とにかく凄いらしい。 それに引き換え一般学校は軽いテストだからまず合格しない生徒はいないだろう。 一夜漬けで何とかなっちゃうくらいだからあまりテストの事は気にせず普段通り過ごしている。 ……一人を除いて… 「……」 「おっはよ!アルト!」 「教科書見つめながら何やってんの?」 入学式の頃から仲良しな親友二人が後ろから走ってくる。 俺は何も見えてないのか、教科書を見つめながらぶつぶつ呟いていた。 いつもは俺が二人の部屋に訪れて一緒に食堂に行き登校するが、今日は早めに行くと連絡していて先に行っていた。 慣れない一夜漬けなんてするものじゃないと眠たい目を擦りながら復習をする。 ゆっくり歩いていたからすぐに俺に追いつき、二人は俺の教科書を覗き込んだ。 凄く細かく書き込まれて逆に見えづらそうだと思った。 「凄いな…」 「今日試験だよね、そういえばアルトくんは去年の中間も期末も赤点だったもんね」 ルカの言葉が突き刺さる。 まるっきり勉強してなかったわけじゃない、勉強はしていた…人並みに… しかし一般学校にもテストの時のみ魔法テストがある。 それがいつも赤点なんだ。 Zランクなのは学校は知っている、しかし両親はシグナムの恥だと俺が魔力0だとは言っていない。 赤点は恥ではないのかと思ったが、あまりにも赤点を取る俺に見かねた担任が言った。 「このままだとずっと初等部だぞ…魔法テストでどうしても赤点しか取れないなら、他のテストで満点を取れば中等部に入れてやる」 ずっと初等部、それは嫌だ…それに中等部からのカリキュラムにやりたいものがある…なんとしてでも中等部に行かなくては… そこで1番テストの点数が高い算数を頑張っている。 生前は病院にいたし、勉強は教育テレビを見て学んでいた。 ………だから生前の頭脳なんてあてに出来ない、本当の0歳から学ぶんだ。 今日満点取らなくては… 物凄い集中力で二人は邪魔しちゃいけないとこっそりと先に行った。 毎日こつこつより一夜漬けの方が記憶力がよくなる俺は体の事は無視して勉強した。 その成果が今、試されるだろう。 目指せ中等部入学! 「終わったぁー!!結構楽だったな!」 「だね、魔法テストにちょっと苦戦しちゃったけど…アルトくんは?」 「………」 俺は机に顔を伏せたまま動かなかった。 一夜漬けのおかげで分かる問題ばかりで安心した事と、緊張の糸が切れて夢の中に旅立った。 少しだけ、仮眠する。 リカルドとルカは「お疲れ様」と俺に声を掛けて俺が起きるまで待っていた。 俺の目覚めは担任のげんこつだった。 リカルドとルカも驚いて固まった。 「さっさと帰れ!」 「せ、先生…アルトくんは昨日頑張って」 「お前らもさっさと帰れ!」 「…う、はい」 頭が痛く頭を押さえる俺を引っ張り教室を出た。 あの先生は厳しいが優しいところもあるいい先生だが、疲れて寝ている生徒にげんこつとは良いのか? おかげで眠気が覚めた。 二人はこれからどうする?ポアロ行く?と話していた。 俺はやる事があり二人の誘いを断り寮に向かった。 寮に帰ると、管理人が受付から顔を出し「シグナムくんにお客様だよ…ロビーにいる」と言われ管理人にお辞儀してロビーを見渡す。 派手な金髪は目立って見つけやすい。 「ガリュー先生!」 「よっ、待たせたな」 ガリュー先生とは半年ぶりの再会だ。 入学して間もない頃、実家に戻り両親に内緒でガリュー先生に会いに行った。 仲良しだからガリュー先生がシグナム家に来る日は知っていた。 ガリュー先生にあるお願いをしていた。 『お姉ちゃんが今何をしてるか教えてほしいんだ、変わった事があった時でいいから!』 言い方が悪かったのか、すっかりガリュー先生にシスコンだと思われている。 まぁそれでもいい、姉がどう動いているのか知りたかった。 ……グランはちゃんと姉を正しい道に導いてるだろうか。 ガリュー先生はグランに会ってグランの持ち歩いているカバンに盗聴機を付けたと言っていた。 その時のガリュー先生が何故か傷だらけだった、グランと何を話したんだろうか…知りたいような知りたくないような… 今までは「ラグナロクの息子のストーカーしてた」とか「取り巻きいっぱい作ってた」とかそんな内容だった。 俺と会っていたならゲームは動き出しそうだ。 それをどうやって止めるかが問題だ。 そして今姉もトーマも中等部にいる、ここで姉の最初の悪事が働く…ゲームのトーマの回想であった。 また、下らない話であってほしい…取り巻きがまた増えたとかそんなの… ガリュー先生の言いにくそうな顔からして明るい話題ではないだろう。 「こんな話聞いても楽しくねぇよ?」 「構いません、教えて下さい…姉の良い話も………悪い話も…」 「分かった、ラグナロクの息子に近付いた女の子を数名大怪我負わせたらしい…グランは頑張って止めてたが、Zランクのアイツじゃ無理だろうな」 最後まで言おうかどうか迷っていたが、隠すのは良くないと口を開いた。 その話は知っていた、トーマが姉を危険人物と見なしヒロインを殺そうとする姉からヒロインを守る時にその回想は流れる。 「大切な奴までも失いたくない!あの時彼女達を守れなかった弱い自分のままでいたくない!」…トーマの名言の一つだ。 やはりゲームの流れは変えられないのか…死ぬ運命しかないのか。 今すぐ姉の元に行きたいが、魔法学園だ…面会にもいろいろとややこしい審査があり簡単に会いに行けない。 姉の事にショックを受けてると思い、ガリュー先生は何も言わず頭を撫でた。 「じゃあ俺は行くな」 「ガリュー先生、一つだけ聞いても良いですか?」 「ん?なんだ?」 「……元々決まってる未来があるとして、変えられると思いますか?」 「元々決まってても、どうなるかなんて誰にも分からねぇよ…自分自身で未来は変えるもんだろ?」 ……それを聞いてなんだか安心した。 誰かに頼んでもそれは自分じゃない、NPCのようなものだと思う…ゲームには逆らえない。 ならば、生前の記憶を持つ自分はきっとゲームに逆らうために生まれたような気がする。 誰の手も借りず、自分の手で物語を進めようじゃないか!

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