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第14話
ポツポツと窓に雫が当たり音を奏でる。
やがて殴るような雨の音になり、窓から景色が見えなくなる。
カーテンを閉めて机に掛けていたコートを掴み自室を出る。
一人部屋にしては大きい、当然だ…元々は二人部屋なのだから…今は人数が足らなくて一人部屋を使っている。
最初の頃は苦労した。
いつも誰かが居て寂しくなかったが、一人になり友人達の部屋も遠い…簡単に会える距離になかった。
だから休みの日とかは友人達が泊まりに来てくれた。
寂しくなかったら電話して良いよって言ってくれたから頻繁に掛けるのは申し訳なかったから週一くらいに電話した。
もう6年も続けばこの生活にも慣れてきて寂しさもへっちゃらになった。
時々物音にびっくりするくらい、角部屋とはいえ隣の部屋に人はいるから…
コートの袖を通し、靴を履いた。
ドアノブを捻ると冷たい風が吹く。
今日は休日で外は雨だからいつもはそんなにいない廊下が賑やかだった。
話す生徒達の前を通り過ぎると目の前に見知った人物達が歩いてきた。
「おっ!アルト!」
「良かった、今から行こうと思ってたんだよ」
最初の頃より少し大人っぽい顔立ちになったリカルド、最近変声期を迎えても高い声のままで顔もますます女の子みたいになったのが悩みのルカ…どちらも俺の大切な友達だ。
俺が悪名高いシグナムの息子でもずっと一緒に居てくれた。
まだ周りは俺を怖がっていたが、俺が何もしないから陰口はなくなった。
この前の中等部入学試験はギリギリ合格して、1ヶ月後に中等部に入る予定だった。
幼い顔立ちだった俺もちゃんと男の子の顔になり、誰が見ても女には間違わないだろう。
友人二人は俺に近付いた。
「アルトどっか出かけるのか?」
「うん、ちょっと買い物」
「こんな雨の中?明日にしたら?」
「中等部用のノートとか買い忘れて…覚えてる時に行きたいからさ」
「一緒に行こうか?」
「雨の中付き合わすのは悪いからいいよ、今日はごめんね」
俺が申し訳なさそうに謝るとリカルドは首を横に振った。
「俺達は俺達で雨の日を満喫するからいいよ!」とリカルドは俺が罪悪感を抱かないようにルカの肩を抱き笑った。
ルカはリカルドをジッと見ていた。
リビングまで俺を見送り、手を振った。
外は本格的な雨だ、折り畳んでいる傘を広げて小さな水溜まりを踏む。
リカルドは俺がいなくなった寮の入り口をずっと見つめていて、ルカは口を開いた。
「好きだって言えば良いのに…」
「はっ!?な、何言ってんだよ!」
「同室者の僕が気付かないとでも?…いつも寝言でアルト、アルト言ってるくせに」
「!!!???」
「入学式の時、同室交換して正解かも…リカルドがアルトくん襲いかねないし」
リカルドが固まりルカはため息を吐いた。
勿論その場にいない俺は何も知らなかった。
目当ての物を買い、ゆっくりと雨の音とにおいに包まれながら歩く。
するとどこからかミーミーと声が聞こえた。
周りを見渡すと、声は薄暗い路地裏から聞こえた。
路地裏に足を運ぶと使われてない店の屋根の下にダンボールが見えた。
覗き込むとそこには黒い子猫と大きな猫がいた。
親子だろうか、大きな黒猫の頭の毛が赤くなっている。
怪我をしてるのかと見ようとしたら寝ていた大きな黒猫はむくっと立ち上がり子猫を守るようにシャーッと威嚇した。
怪しいものじゃないと猫に言っても分からないだろう。
何だか大きな猫がトーマにそっくりだなと思いながら何も出来ないからそのまま路地裏を後にした。
雨は冷えるからコートを脱いでダンボールに掛ける。
もうすぐ春だし、コートはいらなくなるだろう…冬になったらまた新しいコートを買おう。
少しでも長生きしてくれたらなと思う。
これもきっとなにかの縁だと思うから…
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