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第17話
こんな再会したくなかった、死亡フラグを回避して心に余裕が出来たらグランに会いに行くつもりだった。
大人になって、もう一人前だよってグランに言いたかったのに…
姉は両親からアルトの名を聞かされていないのかグランの呟きにも無反応だった。
グランは俺の傍に行きたかったがその間を姉が入り、俺の目の前に来た。
何を言われるのか分からず姉の言葉を待った。
しかし姉が口を開く事なく驚く行動に出た。
俺は一瞬何をされたか、分からなかった。
ただ…頬が…熱い。
視界がぶれてグランの顔が青ざめているのが見えた。
「グランの知り合いか何だか知らないけど、私に口答えしないで…下位ランクの恥さらし」
「な、なんて事を…アルト様はヴィクトリア様の実の弟なのですよ!!」
「弟?あー、そんなの居たわね…母様が恥の子を産んだって泣いていたのよ、父様も息子なんていないって言ってたわ」
何でもない事のように姉は言う。
分かってた、いらない子なのは…でも、直接血の繋がった家族に言われて気持ちがぐちゃぐちゃになりポロポロと涙を流した。
………いつか、家族と住みたい…それは不可能な夢なのかな。
母を泣かせてしまった…父に恥をかかせてしまった…俺の存在だけで…
生まれ変わっても、ずっといらない子なら…もう生まれ変わりたくない。
下を向く俺を興味なさげに見つめてグランに向き直った。
「グラン、話の続きだけど」
「僕はもう…貴女と共にいられません」
「……どういう意味?父様に逆らうの?」
「僕は貴女が道を踏み外さないように導こうと思いました、だけど貴女は人の話を聞かないワガママお嬢様だ」
「……なんですって?」
「もう貴女と…僕の大切な人を傷付けるシグナムの方達と縁を切ります」
「父様に拾ってもらった恩はどうするわけ?」
「ワガママお嬢様のお守りは大変だったので、恩返しになったと思いますよ」
グランは溜まりに溜まった不満を爆発させて、もう姉に遠慮がなかった。
姉はお守りやワガママお嬢様発言で眉を寄せ怒りを露わにした。
グランは俺の傍に駆け寄り抱きしめた。
久々に感じたグランの温もりとにおいに、また涙が溢れてきた。
グランはシグナムの敵になって大丈夫だろうか、いや…ゲームなら騎士団に入るから大丈夫だろう。
叩かれた頬に触れられ、ちょっと口内を切ってしまっていてピリピリ痛かった。
「ごめんなさいアルト様、僕のせいで」
「勝手に入ってきたのは俺だよ、グランが気にする事じゃないよ」
「……大きくなりましたね」
返事の変わりにとびきりの笑顔で笑った。
あれから8年だ、とても長かった。
いろいろ話したい事は沢山ある、学校で友達が出来た事…料理の勉強をしている事…いろいろ…
いっぱいありすぎて何を話したらいいか分からない。
グランは涙のあとを指で拭いて優しく見つめていた。
それを姉は冷めた目で見つめていた。
姉にとってとても面白くない。
何故優れた自分より遥かに劣る弟を選ぶのか。
プライドがズタズタにされた気分だった。
……グランだけは絶対に許さない、拳を強く握り二人の方を向いた。
「アンタ、アルトだっけ」
いきなり声を掛けられビックリした。
グランは俺を守るように強くアルトを抱きしめた。
更にムカついた。
俺は自分はアルトだと頷いた。
それを見て姉は鼻で笑い近付いてきた。
グランはさらに抱きしめてきたからさすがに苦しいと訴えたら解放してくれた。
「いいわ、シグナムの血を引いてるなら貴方がグランの代わりに私の下僕になりなさい」
「な、何を…」
「グランはもうシグナムと無関係なんだから口を挟まないで…そう言ったのはグラン自身でしょ」
グランは悔しそうに唇を噛み締めた。
俺は冷静に見ていた、やっぱりという思いが強かった。
ゲームで似たようなシーンがある。
グランがヒロイン側の仲間になるシーン。
あの時はグランと姉の二人っきりだった。
数々の悪事に手を染めるのが嫌になりさっきのような事を言いヒロインを守るから次会う時は敵だと言い去った。
それからすぐにグランがいなくなりどうしようかと悩んでいる時に俺がやってきた。
ゲームのアルトはひねくれていて、性格は姉とそう変わらず気が合い仲間になった。
あの場でアルトが登場する事はなかったし、イベント時期も早い…でも今こうしてイベントが再現されている。
最悪なトーマルートでの死亡フラグへと進んでいた。
姉はきっと俺を下僕にすればグランは俺に会う事が難しくなる、それを復讐にしたのだろう。
俺が断れば回避出来るだろう、イベントは…
姉に逆らったらあの女子生徒みたいに殺される。
死亡フラグは回避できない。
拒否権なんてありはしないんだ。
少しでも長く生きるために、死亡フラグを突き進むしかない。
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