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第18話※トーマ視点

「トーマ・ラグナロク殿、本日付で聖騎士団長に任命致します」 運命は、変えられないという事を身をもって知った。 それは20歳の頃の出来事だった。 事件の後、あの女が来てもずっと避けていた。 また関わると関係ない人を巻き込む…ならば自分一人が恨まれた方がマシだ。 ノエルにも沢山迷惑を掛けて申し訳ないと思っている、本人は笑って「大丈夫だ」と言うが… そして高等部卒業してから二年が経過して小さなアパートを借りていたが、待ち伏せをしていたようにアパート前にあの男がいた。 周りは「ラグナロク様だ」「本物?」とざわめいていた。 無視して部屋に入ろうとしたらいきなり腕を掴まれて人がいない場所まで引っ張られた。 腕を振り払うと親父はこちらを見て静かに言った。 「トーマ、もう遊びは終わりだ…騎士団に入りなさい」 「俺は入らないと何度も言って…」 親父を睨み何度このやりとりをやったか分からないが同じ事を繰り返そうとした。 そして親父の後ろを見て言葉が詰まった。 白の軍服を身にまとい何人か現れた。 あれは騎士団の軍服………親父の昔からの知り合いだろう。 どうやら行く気がない息子にしびれを切らし強制的に入れさせる気なのだろう。 二桁ほどには任ず人数はいない、それに魔力だと俺がトップだろう。 同じランクの親父でも昔のように魔力は使えない筈…ならば強行突破で道を作り逃げよう。 ポーカーフェイスで考えていたら、ずっと見てきた親父はすぐに気付いて目を見開いた。 「リンディ・ヴィータ」 「……は?」 「彼女がもうすぐこの王都に来ると、ヴィータさんから聞いて助けになってほしいと頼まれた」 リンディ・ヴィータは物心つく前の赤子の時からの幼馴染みだ。 勿論家族ぐるみの仲良しだ。 出会いは英雄だった親父と親父の右腕だった魔法使いのリンディの父親だった。 住むところは違ってもお互いの国を行き来していた。 二つ年下のリンディは俺が初めて見た異性でちょっと意識していた。 しかしすぐにパーティーで出会ったあの子が好きになったから人生なにが起こるか分からない。 あれから10年以上も会ってないから正直小さい頃の姿でさえぼんやりとしか思い出せない。 ……あの子の事はすぐに思い出せるのに… 久々すぎる再会だが、今の状況とリンディは関係ない……親父はなにが言いたいのか分からない。 「お前が騎士団になれば彼女を守れる、そうでなくては彼女はきっとこの王都で生きていられないだろう」 「……脅しか?親父」 「彼女は狙われやすい、そう言っているのだよ」 リンディの事は昔親父に聞き知っている。 人類の中で片手で数えるほどしか存在しない契約の魔法使い。 リンディはZランクで弱い、しかしそれには理由がある……リンディはそもそも魔力を使う必要がないんだ。 リンディに力を込められ口付けされた魔法使いはリンディと契約して本来の秘めた力が解放されリンディを守る姫騎士となる。 しかしリンディによって魔力を吸いとられてしまうデメリットがあり、力を出せるのは僅かな時間のみだ。 それでも希少価値のリンディはいろんな奴に狙われる……今まではリンディの護衛係がいた筈だ。 「護衛係は?いるだろ」 「彼女は立派な姫になるために修行をしに表側ではお忍びでやってくるそうだ」 ついため息が出る、護衛なしの意味をリンディは分かっているのか怪しいものだ。 リンディを見捨てる事は出来ない、しかし騎士団に入りたくない。 個人的に守ればいいと思うが、騎士団になれば守れるという事は騎士団が付きっきりでいる可能性が強い。 …それにシグナムの娘の件もある、俺が個人的に関わるのは危険だ。 しかし騎士団だとシグナムも中々手出しは難しいだろう。 悩む俺の腕を親父が掴む。 「何を悩む必要がある?いつまで反抗しているつもりだ?…誰一人も守れない自分のままでいいのか?」 親父は騎士団に入れたいだけでこんな事を言ったって分かってる。 でも、今の俺には胸が痛んだ。 あの時、何も出来なかった…止めれば良かった…でも俺は魔力を使うのにためらった。 俺の魔力なんて使ったら、この場にいる全員死ぬ可能性があった。 怖かった、ただの臆病だ。 幼馴染みも同じ目に合わせるのか。 …大切なあの子を守れるのか? 「トーマ、特別試験だ…お前の力を見せろ」 勝手に親父は話を進めた。 俺の手が青白く光った。 親父の合図により白い軍服の男達は襲いかかってきた。 親父に言われたからじゃない、親父と同じ道は絶対にたどらない。 将来はあの子と喫茶店をやるために資金を貯めているんだ。 幼馴染みが王都にいる時だけ騎士団に入ってやる。 そして親父の側近から騎士団長に任命された。 親バカなんじゃね?と思いながら木に寄りかかる。 周りの白い軍服の男が全員倒れていた。 力の加減が出来ないから的を外して魔力を放出したら風圧で吹き飛ばされて倒れた。 親父達はとっさに守りのバリアを張ったから倒れはしなかったが、親父が息切れしていた。 ざまぁみろ、とか思いたいが眠い。 「こ、れは…もしかしてトーマ様はラグナロク様よりも魔力が強いのかもしれませんね」 「……ふっ、トーマは一撃に魔力を100%放出する…その後魔力切れで昔から眠くなるくせがあってな」 「恐ろしいですね、もしトーマ様が誰も傷付けないために空に魔力を放ってなかったら王都がまるごと消えていたかもしれませんね」 俺は眠そうにしつつも何処かに行こうと歩き出している。 側近は追いかけなくてもいいのかと聞くがほっとけと言った。 無理矢理とはいえ騎士団入団試験を終えた今、ここに用はない。 俺が起きるまで魔力回復に3日は掛かる…その間に敵に襲われたら最大のデメリットだろう。 だから俺は一撃で終わらせなくてはならない。 それだけの力がある。 あれさえいれば、もっと楽なのに… 「とりあえずシグナムとの因縁の対決はもうすぐだ…それさえあればこの場所にも用はない」 「酷い人ですね、自分の息子でさえ切り離すなんて」 「…アレだって私を父だとは思ってはいないのだろう」 親父と側近は倒れた騎士達を担ぎながら歩き出した。 トーマの騎士団入団は一部を除き、ほぼゲーム通りに運んだ。 ただ一つ、予想外な事が起きた。 それはトーマにとってアルトはとても大きな存在になっていた。 トーマはしばらく歩き、その場に倒れた。 背中に誰かの影が重なった。

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