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第22話※トーマ視点
まだこの世界に国というものがない時代にさかのぼる。
もっと昔に何の力もない人間が存在していたが、人間と同じくらいに生まれた魔獣に餌として食い殺された。
魔獣を狩りの道具として扱っていたがその魔獣に狩られてしまったと誰かが笑っていた。
魔獣を倒せるのは力がある魔法使いだけだった。
とても貴重な魔獣の肉を狙い魔獣ハンターと呼ばれる魔法使い達が狩りを始め、魔獣の数は急激に減っていった。
生き残った魔法使い達で何もない場所に知恵と魔法を使い雨風が凌げる場所を作った。
そして子孫を残し、魔法使いだけの世界を作り上げた。
いずれは国を作り、もっともっと生活が楽になればと夢を膨らませていた。
そんなある時、不思議な出来事が起こった。
魔法使いは制御を知らない0歳の時に一瞬だけ自分の力を出すという。
とある家族は貧しかった、魔獣を倒す力もなく皆それぞれ魔法で家を作ったりしているのに大きな木の影で暮らしていた。
食料は大きな木に実る果実のみ、食べられない日もあった。
それでも一つだけ、願いがあった。
周りの家族はとても明るく楽しそうだ。
子供がいれば、きっとこの暗い家庭を明るくしてくれるのではないか…女性はそう思った。
そしてとうとう待望の子供が出来た。
元気な男の子だった、初めての子供だからイチと名付けた。
安易だが、とても大切に育てた。
女性が思っていた通りイチが明るく元気に走り回り暗かった夫婦も笑う事が多くなった。
しかしイチが5歳になり、ようやく気付いた。
周りの子供は風を操ったり火を出したり魔法を使っているのにイチは一度もそんな事はない。
最初は具合が悪いのかと思ったが元気に走り回り周りの子と遊んでいたりするから病気ではなかった。
もしかしたら人間なのかもと疑った。
魔法使いの間に人間が生まれるなんてとても珍しい事でこの場所で一番長寿のおじいさんのところに向かった。
人間がいた頃から生きているおじいさんは不思議そうにイチを眺めていた。
魔法を使わない魔法使いなどいない、しかし人間と言われても首を傾げてしまう。
大昔の魔法使いは人間とほとんど容姿が変わらないから区別するために魔法使いの耳は少し尖っていた。
今現在は人間がいなくなり、人間と区別する必要がなくなったと耳が丸くなった。
イチの耳も尖っていて、それを見たから両親もすぐに魔法が使えないと思わなかった。
人間でも魔法使いでもない不思議な存在だった。
それでも変わらず両親はイチを愛したがイチに絶対に誰にもこの事を話してはいけないと言った。
話せばきっとイチは今までのように友達と遊べなくなる…気味悪がってイチが悲しむ現実が待っていた。
だとしたらイチはそのまま魔法使いとして過ごした方が幸せだろう。
……たとえいつかバレたとしても…
そんなある日の事、一人の子供が倒れた。
あの子は確かよくイチと遊んでくれる女の子だ。
一緒に遊んでいた子の証言によると突然女の子が苦しみだして魔力を暴走させて倒れたという話だった。
魔力の暴走、本来なら大人に多い筈だった……子供は魔力が少なく暴走するほどの魔力があるとは思えない。
稀に力が強い子供が生まれるがそう言う子なのだろう。
暴走すれば魔力が消える…そうなれば女の子は死んでしまうだろう。
そんな時イチが何も言わず女の子に近付いた。
周りはまた暴走するかもしれないがイチを止めようと声を掛けたが全く聞いていない。
誰も暴走の巻き添えはごめんだからイチ達に近付こうとしない。
両親はイチに駆け寄ろうとするが周りに危ないからと引き止められる。
やがてイチは女の子の傍に行き抱き抱えた。
何をするのか周りは静かに見つめる。
何を思ったのかイチは女の子に口付けをした。
その時足元に黄色い魔法陣が現れた、見た事がないものだった。
暴走して消えかかっていた女の子は奇跡を起こしたかのようにしっかりと目を開けた。
その時の事をイチに聞くと本人も分からないが何故か体が無意識に動いたと言う。
それから女の子は元気になり、イチが魔力を与えたと思われた。
イチはきっと自分で使える魔力はなくても他人に与える魔力があったとしてゼロの魔法使いと呼ばれるようになった。
魔法使い達が暴走で死なないであろう未来が待っている、ゼロの魔法使いは貴重な存在として語り継がれてきた。
あれからゼロの魔法使いの力を持つ者が少しずつ増えてきた。
しかしそれと同時にゼロの魔法使いを使い悪さをする者達も増えていた、その血肉を喰らうと不死になるだとか真意は不明だ。
そして年を重ねるごとに増えたと思ったゼロの魔法使いが減り、絶滅した。
今ではこの本を読む人しか知らないだろう。
これだけは言える、ゼロの魔法使いは希望でも奇跡でもない…争いを生む存在なのだと…
消えて良かったのかもしれない、まだ存在するならきっと…
そこで本を閉じた。
もう十分だった。
この本を書いた魔法使いはきっと最後の言葉を言いたかったのだろう。
ゼロの魔法使いに恨みでもあるのだろうか、それは当然本人じゃないし分からない。
…でも、これだけは言える。
「ゼロの魔法使いが争いを生んだんじゃない、全部それを私利私欲に利用しようとした奴らが勝手に喧嘩しただけだろ」
頭を抱えた。
俺も協力してほしいと願った、立派な私利私欲だ。
戦争を起こした奴と何も変わらない。
このまま彼をほっとけば彼がゼロの魔法使いと知る者は多分いないだろう。
彼がゼロの魔法使いでもそうでなくてもその方が幸せなのかもしれない。
本を元の場所に戻すように鳩ロボットを動かし、研究所を後にした。
読むのに夢中で外がすっかり真っ暗になっている事に気付かなかった。
研究所は光の熱で実験器具とかがダメになるとか言って窓を設置していないのだろう、あんな薄暗いところで長時間居て病気にならないのか不思議だ。
市場の方に戻ってきてもう畳まれている屋台を眺めながら空を見上げると星が沢山輝いていた。
そういえばあの時も彼女とこうして流れ星を見た事を思い出し頬が緩む。
「あっ!流れ星!」
その言葉にドキッとする。
周りをキョロキョロ見ると道の真ん中に人影がいた。
「え!?どこどこ?」「見えない!」という声がした。
友人だろうか、あの不思議な少年がいた。
目を輝かせて星を見る少年が何故かあの子と重なって見えた。
何故だろうか、違うのに…彼から目が離せない。
「何お願いしたの?アルト」
「明日の料理試験合格しますように!」
「現実的だなぁー…とはいえ俺もヤバイんだよなぁ」
三人は楽しそうに話しながら去っていった。
アルト……あの少年の名前か。
さっきまでゼロの魔法使いとして興味があったが今は別の意味で興味がある。
何故あの子と彼が重なって見えたのか、もしかして姉か妹がいるとか?
それとももしかして可愛い顔をしていたけど女の子じゃなかった?そういえば男の格好をしていたな。
もしかして、全て勘違いという事はないだろうか。
直接聞いたわけではないからその可能性はある。
何にせよ、もう一度彼に会う必要がありそうだ…ゼロの魔法使いとか関係なく君に…
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