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第21話※トーマ視点
彼にはいろいろと聞きたい事があった。
小さくなる背中を眺めそう思った。
俺の魔力は3日寝れば回復するが、起きたその時は3日も寝ていたからかだるくて数分は動けなくなる。
しかし今の俺はすっきり爽快な朝を迎えていた。
しかも普通なら寝起きなら90%までしか回復していないが今は魔力も満タンになっている。
こんな事、今までなかった…とても不思議だった。
手を見つめ思い出す。
なんだか夢の中で暖かい光に包まれたような、心地よい気持ちだった。
目が覚めたら彼がいたからなにか知ってるかと思ったが名前も教えてくれなかったから探す事も出来ない。
うーん……気になる。
「トーマ様ー!!…って寝てるから反応しないよな…………あれ?」
後ろから声がして後ろを振り返ると親父の側近が立っていた、きっと探しに来たのだろう。
不思議な顔をしているからなんだと不機嫌になる。
彼に起こしてもらったお礼もしていないからでもある。
それに何故幽霊を見るような顔をされなきゃならないんだ…心外だ。
親父はいないようだ、いつも何処で何をしてるか分からない。
側近は本物かどうか確かめるようにベタベタ触るから振り払った。
「なんだ」
「え、いや…なんで力を使って起きてるのか気になって…」
「……は?当たり前だろ、もう3日寝てたんだから」
「3日!?ちょ、ちょっと待って下さい!ほんの数時間前に魔力を解放したじゃないですか!?」
その言葉に今度は俺が驚いた顔をする。
3日どころか1日も経ってない?
じゃあなんで目が覚めたんだ?
今までこんな事なかったのに…
ますます彼に会って事情を聞く必要がありそうだ。
何をしたのか、君は何者なのかと…
「ちょっと用事思い出したから行く」
「あっ!トーマ様!ラグナロク様から伝言です!3日後に団長就任パレードを開くそうです!」
「…俺はOKしたつもりはない」
「ダメですよ、もう予定に入れてるので」
ニコニコした顔で側近はそう言う。
ため息が零れる。
早く探しに行きたいのに…
そういえばこの側近は親父の側近の前に魔法研究所の研究員だったんだっけか…名前は知らない、呼ぶつもりもない。
ならこの不思議な現象についてなにか知ってるかもしれない。
側近は伝言は伝えたと帰ろうとするから引き止めた。
「1日も寝てないのに魔力が回復する事ってあるか?」
「…それってさっきの事ですか?さぁ、トーマ様の100%魔力を放出する体質はとても珍しいですからね」
「俺とは逆に、魔力を与えられる魔法使いがいる事ってあるのか?」
側近は驚いた顔をしていた。
もしそんな魔法使いがいたなら全て説明出来る。
普段は3日掛かるのに半日未満で魔力を満タンに出来る魔法使い。
彼がそうであるなら、自分の魔法を説明して協力してほしかった。
ずっとずっとこの魔力に悩まされていた。
人を傷付ける事しか出来ないこんな魔力、いらない。
でも魔力は自分の命のようなもの、魔力が消えたら自分も死ぬ事を知り諦めた。
ならば制御出来るようになりたい、でも一度魔法を放出すると3日は眠くなるから怖くて練習も出来なかった。
…もし、本当に魔力を与えられる魔法使いがいるとしたら恐れる事もなく魔法制御の練習が出来る。
ジッと側近の答えを待っていたらしばらく考えて首を横に振った。
「いましたよ、大昔に……でも今はいません、千年以上も見つかっていないのでその力はきっと消滅してしまったのでしょう」
「……その魔法使いって」
「ゼロの魔法使いと呼ばれています、なんでも魔力が全くない事からその名が付けられたそうです…今ではありえませんよね」
ゼロの魔法使い……聞いた事がない。
千年前の話だからきっと知ってるのは研究オタクが集まる魔法研究所の研究員ぐらいだろう。
偶然俺の前に現れて力を分けた?確率はとても低いだろう、これだったらたまたま今日は気分が良くて早起きしたって思う方が現実的だ。
やっと希望が見えたと思ったのに…残念だ。
側近がいる反対方向に足を向けて歩き出す。
もうここには用はない、3日後にパレードならその前に正式な騎士団の入団式があるだろう…引っ越しの荷造りをしなくては…
もう抵抗するのは止めた…考え方を変えた。
騎士団長になり親父の歴史を塗り替える、そうすれば親父は過去の人となり元英雄と呼ばれるだろう。
プライド高い親父の事だ、きっと息子を騎士団に入れた事を後悔するだろう。
過去の栄光にすがり母や国民を裏切った罰だ。
そしてもう一つある、あの子に気付いてもらえるように…
ただの一般人同士なら広い王都で会うのは難しいだろう、だが俺が騎士団長として目立てば見つけやすいだろう。
あの子に会うために、そして騎士団を定年で辞めた日に一緒に小さな喫茶店を営む。
完璧で幸せな家庭計画だ、将来は子供もほしい…うん、二人に似てるなら可愛いだろう。
夢が膨らむ、早く二人で未来の話をしたい。
……あ、その前に告白がまだだった。
ちょっとゼロの魔法使いについても調べようか、側近の話じゃ大雑把にしか分からなかった。
魔法研究所に行けば資料はあるだろうか。
確か持ち出し禁止だが申請すれば研究所内で重要書類以外閲覧出来た筈だ。
魔法研究所は魔法学園の奥にある。
ここからそう遠くないから向かう。
魔法研究所は小さな頃側近に社会見学だと無理矢理連れ回された一度だけ足を踏み入れていた。
危険なものが沢山あり、研究員達も眼鏡が光りぶつぶつと呟き鼻息を荒くしている奴がほとんどでもう二度と来ないと思っていたがまさかこんな早めに来るとは思わなかった。
研究所の中に入るとすぐに薬品のにおいがする。
臭くて腕でガードしながら進むと、受付があった。
資料の申請を済ますとラグナロクの息子だからか何の身元調査もせず通してくれた。
その時に研究所内の設備の使い方を教わった。
こんなあっさりで大丈夫かと不安になる。
同じ顔の別人がなりすましていたり、変化の魔法を使える奴もいるかもしれないのに…
ため息を吐きながら自動ドアを抜ける。
そこには大きな釜が真ん中にあり、白衣の研究員達が忙しそうに歩き回っている。
誰もこちらを見る暇もない、俺にとってもありがたい。
壁一面には資料がびっしり並べられている。
研究員達も一つ一つ場所を把握するのは難しいだろう。
そんな時、検索ロボットという探すためだけに誰かが発明したロボットがいる。
鳩の形の小さなロボットだが全て資料を記憶しているから侮れない。
俺も「ゼロの魔法使いの資料」と鳩の背中を押し音声を記録する。
鳩ロボットは飛んでいった。
帰ってくるまで壁に寄りかかった。
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