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第29話

「姫」 「姫!?誰が!?…まさか俺じゃないですよね」 まさかと思いつつ一応確認すると何のためらいもなくトーマはもう一度姫と呼んだ。 いや、いやいやいや……姫ってヒロインの呼び名じゃなかったか!? 敵であるアルトを姫呼びはさすがに可笑しい、そもそも俺は男だ。 男だから王子と呼ばれても似合わなすぎて微妙だけど… とはいえ名前は言えない、トーマは呼び名が気に入ったのか姫呼びを連呼した。 トーマって結構強引なところあるよな、ゲームではクールだったんだけどな。 「俺は姫じゃない!…です」 「…君が誰でも俺は君が姫だと思う」 トーマに頬をゆっくり撫でられた。 いつの間にか至近距離にトーマの顔があり驚いた。 テーブルに身を乗り出していてジッとトーマを見る。 …なんだろう、まだなにかあるのか? しかしトーマは何も言わず俺から離れた。 小さな声で「ごめん」と聞こえた、何に対して謝ってるのか分からない。 「紅茶のおかわりは?」 「あっ、じゃあ…」 また美味しい紅茶飲みたいなと思っていたら部屋のドアが乱暴に叩かれた。 誰かお客さんが来ているようだ。 ドアの向こうから「トーマいるか!?トーマ!!」と聞こえる。 トーマは明らかに嫌そうな顔をしているがこんなに慌てているんだ、なにかあったのかもしれない。 俺もルカに心配掛けているから早く帰って安心させたい。 それと今日聖騎士団長就任パレードが開かれたという事は今日からゲームが始まる、俺がメインキャラと会うのはあまりよろしくない。 姉を導きつつバッドエンドにならないようにゲームを見守らないといけないからソファから立ち上がる。 「行って下さい、俺はもう帰るので」 「……しかし、せっかく来たんだからゆっくり…」 「俺はもう十分ゆっくりしていますよ、緊急だったら大変です」 「……………姫がそう言うなら」 トーマがそう言いたいならもう何も言わない。 ただ、姫と呼ばれて振り返る自信はない。 …そこはごめんなさい。 トーマがドアを開けると扉をノックした青年がホッとした顔でトーマを見ていた。 金髪にピアスにネックレスに軍服を半分まではだけさせた軟派な男がいた。 …ガリュー先生がマシになるようなチャラ男がそこにいた。 「良かった、帰ってたんだな…パレードにいないからまたぶっ倒れてんのかと」 「悪かった、急に抜け出して…それでなんだ?」 「あ、あぁそうだ…実は今お客さんが来ててさ…………ってなんで俺を部屋から遠ざけるんだ?」 「…気のせいじゃないか?」 トーマと仲が良さそうな青年はそのままトーマに押され何処かに行った。 部外者がいたらマズイからな、しかも新人騎士団長が呼んだとなればいろいろと… トーマに感謝して、今度また偶然会ったら食事でも奢ろう…それだけならゲームに影響ないよな。 ケーキも紅茶も美味しかったし…何処で買ったケーキだろう、聞いとけば良かった。 別のお客さん用だよな、食べてしまって申し訳ない。 とりあえず今はトーマが道を開けてくれたから帰ろうと部屋のドアを開けた。 …そういえば話ってなんだったんだろう、自己紹介…だけじゃないよな。 やっと屋敷から出れて今は何時だろうと時計を探す。 公園の時計を眺めると昼だった。 パレードからあまり経っていなかった。 ルカは部屋にいるだろうかと寮に向かって歩く。 あの金髪、ゲームで見かけた気がするが気のせいだろうか。 副団長のノエル?…いや、違う。 確かにノエルはトーマの右腕でトーマとは魔法学園時代の親友という設定だ。 しかしあの金髪の青年とノエルには重大な違いがある。 ゲームのノエルは金髪だがアクセサリーは一つも身につけず、物腰の柔らかい王子様風の青年だった。 ヒロインには優しいがその他には見下す態度をとっており攻略キャラ達に嫌われている(トーマは慣れていて気にしないが) 見下す態度はトーマにもしており、さっきのようにトーマを心配したり…自分から積極的にドアをノックして声を掛けたりなんて絶対しない………とゲームをクリアした人間は思う。 彼はきっとノエルではなく、別の騎士団員だろうと納得した。 昨日は明日が早いと騎士団の寄宿舎に泊まっていたが今日帰ってくるだろうし、リカルドのお祝いに豪華なものを作ろう! 寮が見えてきたら、ドアの前で誰かがしゃがんでいるのが見えた。 あれからずっと待っていたのかルカがそこに居て、ルカは土を踏む足音に気付きこちらを見ていた。 そして俺がルカに近付くと慌てて少し転けながら走り抱きついた。 手がとても冷えていて、ルカの手を握った。 「ごめんね、心配掛けて」 「ううん、でも良かった…もう足大丈夫?」 「……えっとそれなんだけどね」 「さっすが騎士団長様!一瞬で骨がくっついたんだね!」 ルカの純粋な眼差しに言葉が詰まってしまった。 しかしこのままじゃいけないので、ルカにトーマといた時の出来事を話した。

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