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第33話

次の日、授業が終わり習った料理のレシピを書いたノートを眺めながら寮に向かって歩いていた。 この食材なら昨日の残りがあった筈だから…と脳内でシミュレーションをする。 寮が見えたところで誰かが寮の前に立っているのが見えた。 学生ではなさそうだし、教師?でも教師なら普通に寮に入る筈だ。 じゃあ誰かに会いに来たのだろうか。 近付くとその人は振り返った。 最初に目についたのは真っ白な包帯だった。 片目が包帯で覆われていた。 美しい宝石のように赤い瞳にスカイブルーの髪が光に反射してキラキラと光っている。 黒いコートを着た綺麗な青年は俺をジッと見ていた。 俺は見とれてる場合ではないと我に返り青年に近付く。 「あの、どうしたんですか?誰かに会いに来たんですか?」 「…お前に会いに来た、シグナムの当主の命令でお前の護衛をする事になった」 「……え?」 俺は青年が俺に会いに来た事よりも父が俺の護衛を頼んだ事の方が驚きだった。 俺の事なんてただの捨て駒としか思われてないと思っていた。 本当は別の命令で俺を気遣って言ってくれてる可能性もあるが、グランとガリュー先生ならまだしも見ず知らずの人が俺に嘘を付くとは思えない…シグナム家に雇われた使用人なら尚更ありえない。 じゃあ本当に護衛?でも、何故いきなり… 「護衛って俺、なにかに狙われてるんですか?」 「…そうだな」 そのなにかは教えてくれないみたいで会話が止まった。 護衛って事は姉にグランが付いたみたいにずっとこの人と一緒に過ごさなくてはならないのか。 俺にはやらなくてはいけない事があるからやりづらい。 寮までは一緒にいないだろうと思っていたら寮に部外者が入寮する時に書く書類を見せられた。 金持ちの人は身の回りの世話を使用人に任せたりするからこういうのがOKとされている。 ……もしかして彼は心が読める魔法使いなのかな、そんな魔法使い聞いた事ないけど… 「えっと、とりあえず俺は知ってると思いますがアルト・シグナムです…よろしくお願いします」 「……あぁ」 「あの、貴方のお名前聞いても…」 「必要ない」 「………」 「………」 教えてくれそうもなくて諦めた。 彼はなんて呼ぼうか、呼び名がなかったらなにかあった時呼べない。 昨日はトーマが呼び名を決めて今日は俺が考える。 とりあえずあだ名って見た目とかで決めるんだよね。 包帯さん…はちょっと嫌だよね、服が黒いから黒さん?でもいつも黒いか分からないし白い服を着たら混乱する。 俺を守ってくれる人だから… 「……騎士さん」 「?」 「騎士さんって呼んでいいですか?」 騎士団と被るかなと不安だったがなんか騎士っぽいからそう呼ぶ事にした。 騎士さんは驚いた顔をしてこちらを見ていた、呼ばれた事ないのだろう…騎士団の人以外に言う言葉じゃないから当たり前だ。 でも、ずっと無表情で人形のように感じていたが初めて人間っぽい表情だなと変な感想を抱いた。 何も言わないから呼んでいいんだよね。 俺が寮に入ると騎士さんも着いてくる。 急に一人分の料理が増えたから食材足りるかな…シチューにすればなんとか… ーーー 「召し上がれ!」 「……俺に?」 当たり前だと頷いてシチューが入った器を騎士さんの前に置いた。 リカルドとルカは騎士さんを物珍しそうに眺めていた。 口に合えばいいけどとドキドキする。 しかしスプーンを持とうとせずジッとシチューを見ていた。 嫌いなものでもあったのだろうかと不安になる。 騎士さんが口を開きその言葉でリカルドがキレた。 「…なにが入ってるか分からないものを口にするつもりはない」 「は?なにがって、アルトがお前に毒でも盛るって思ってんのか?」 「……否定は出来ない」 リカルドが騎士さんに掴み掛かろうとしてそれを俺とルカが止める。 初対面の相手を信用しろって方が無理だ…彼は正しい…全然考えてなかった自分が悪い。

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