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第35話

騎士さんの話によれば父は会わないと言ったそうだ。 分かっていた事だ落ち込む暇はない、いつか会ってくれる事を信じよう。 ならば先にトーマに会おう、そのためには騎士さんをどうするかだ。 用事を頼もうかな、少しでも離れていればトーマに会いに行ける。 …しかし何を頼もうか、不自然な用事を頼み怪しまれたら意味ないし。 部屋に戻り、周りを見渡しなにかないか考えて、ある物を見た。 そうだ、これだ! 頼むのは明日だから、それまで企みがバレないようになるべく自然を装っていた。 騎士さんは俺に全く興味がないのか一ミリも疑っていないように思えた。 ありがたいんだけど……なんか悲しいな。 ーーー そして翌日、俺はいつものように学校に通った。 当然のように騎士さんも着いてくる。 周りの通学する生徒達は騎士さんの美貌に目を奪われていた。 俺も初対面の時は見惚れていたから分かるとなんか共感してしまう。 タイミング的に今用事に出かけられたら俺は授業で身動きが取れないから作戦失敗する。 だから放課後になるべく自然に切り出そう、それがいい。 教室でリカルドとルカと会い後ろにいる騎士さんに二人は目を丸くした。 またリカルドは騎士さんと喧嘩をしそうなピリピリした雰囲気だから俺はさっさと自分の席に座った。 騎士さんはリカルドがなにかしない限り何もしないようで興味なさそうにリカルドを見ていた。 騎士さんは大人だし、多分護衛のプロだし…魔法ランクは分からないが最下位ランクのリカルドがまともにやりあって勝てる相手ではない事だけは分かる。 慣れるまでリカルド達と話すのは控えた方が良さそうだ、夕飯だけは差し入れしたい。 チラッとリカルド達を見ると頬を膨らませて拗ねているリカルドと俺に向かって大丈夫だと笑いかけるルカが見えた。 俺も笑い、担任が教室に入ってきて前を向いた。 そして、時間が過ぎて放課後になった。 俺は廊下を歩いていて騎士さんも着いていく。 カリキュラムは騎士さんが邪魔をすると廊下で待っていてくれた。 騎士さんにお礼を言うと「…なんだそれは」と言われた。 お礼を知らないのだろうか、そんな人いるかな? もしかしたらお礼を言われる事はしてないって意味だろうか、騎士さんの性格からしてそうかもしれない。 そう自分で納得していると下駄箱が見えた。 「あ、そうだ!今日の夕飯の食材買い忘れた!…でもこれから用事があるし」 チラッと騎士さんを見ると騎士さんは無表情で真っ直ぐ前を見ていた。 本当に興味がないようだ、興味がないなら離れても問題ないよな…なにかあったら自分の力で何とか頑張るし… カバンから財布を取り出し騎士さんに渡す。 騎士さんは買い物した事あるのか不安だが、このくらいしか思い付かなかった。 昨日見たのは冷蔵庫で、そろそろ買い出しに行かなきゃなと思っていたところでちょうど良かった。 足を止めてノートとペンを取り出し、ノートの端のページを千切りメモを書く。 …少しでも時間を稼げるように多めに書く。 「騎士さん、お願い出来ますか?」 「…自分が口にする物を他人に頼むのか」 騎士さんの言葉の意味が分からなかったが、頷くと変な奴を見る目で見られ歩いていった。 これは買ってきてくれるという事だよな。 御使いを頼んでしまい申し訳ないが、早くしなくてはならないからごめんなさいと心の中で謝る。 一先ず安心して視界に騎士さんがいなくなってから歩き出す。 トーマは何処にいるだろうか。 ゲームでは寄宿舎の自室で仕事をしてたり訓練所にいたりしていた。 まだ騎士団長になりたてだし、仕事もいっぱいあるから寄宿舎にいる可能性が高い。 そうと決まれば寄宿舎に向かおうと歩き出した。 俺は騎士さんが帰って来る前に早くトーマに会わなければと焦り背後の影に気付かなかった。 「シグナムのお坊ちゃんみーっけ」

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