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第44話

「お前、リンディ様を狙っていたのか」 「…ち、違っ」 「じゃあ何故あの女はお前を褒めたんだ?」 それはきっと後ろの騎士さんが…と言って素直に信じるとは思えない。 リンディはノエルに銃を下ろすように訴えるがノエルはリンディの命を守る護衛だ、そう簡単に信用しないだろう。 姉を見ると弓矢を構えていた。 俺が教える前にノエルのもう片方に握られた銃で姉の弓矢を攻撃した。 とっさに避けたが、イライラしているのが顔色で分かる。 騎士さんは何もしないのかただ見ていた。 騎士さんが俺ならきっと騎士さんもトーマに殺される必要があるのだろう。 リンディを殺せばトーマの怒りを買うのは簡単だが、それだとゲームが成立しない…騎士さんはいないキャラだから… だからトーマだけを狙うつもりなのだろう、そして俺が余計な事をしないように見張りに来たという事か。 「さっさとその女を殺しなさい!」 姉が俺にそう叫ぶ、それを聞きノエルは俺を睨み距離を取る。 …リンディは傷付けない、なにがあっても… 俺は姉をまっすぐ見た。 騎士さんの嫌な事をしようと思う。 大丈夫、今この場を切り抜ければ言い訳はいくらでも出来る。 ゲームに従う事を止め、自分のハッピーエンドを作る! 「俺は貴女には…」 「ヴィクトリア様!アルト様が攻撃を仕掛けようとしています!!」 「…え?」 姉には従わないと言おうとしたら騎士さんが言葉を重ねてきた。 勿論攻撃なんてしようと思っていない。 姉に恨まれ、一人ぼっちになってもゲームとは違う展開…騎士さんが嫌がる展開になったらハッピーエンドになると思った。 もし、シグナム家の人に殺されても大好きな人が幸せならそれでいいと思っていた。 やはり騎士さんは阻止してきた。 俺は攻撃の意思はないと手を上に上げて降参ポーズをしただけなのに、なにか攻撃を仕掛けると思われノエルは警戒して後退る。 魔力はないんだけどな…シグナム家しか知らないから仕方ないけど… 「えっと俺は…」 「ターゲットロックオン!いっきまーす!!」 上から陽気な声が聞こえて、上を向く前に騎士さんに腹を蹴られ木に激突した。 お腹がズキズキすると腹を押さえて前を見ると俺がいた地面が抉れていた。 その真ん中には刺さった槍を引っこ抜く真っ赤な髪の男がいた。 騎士団の制服、彼は攻略キャラの一人だ。 戦闘狂で普段はやる気がなく何を考えているかいまいち分からないという印象だ。 確か名前はベリル・ルネッサンスだ。 ベリルの後ろからぞろぞろと騎士団の制服を着た人達が集まる。 皆殺気立っている、こんな大勢…切り抜けられるのか? 隣にいる騎士さんを見る。 彼は助けたわけではなく、俺を殺すのはトーマだけだと思い阻止しただけだろう。 騎士団の中に見知った顔の人達がいた。 リカルド、グラン………そしてトーマ。 その三人だけ殺気を出さず驚いていた。 「ベリル、状況を説明しろ」 「この男がリンちゃんを魔法で攻撃しようとしたから、俺が止めましたー!褒めてくれてもいいよ」 「…魔法?そんな筈は…」 トーマは戸惑っていた、しかし俺はトーマの戸惑いの理由を知らずただどうしようかと考えていた。 誤解を解きたいが、他の人がいると正直邪魔だ。 といってもこの状況二人っきりになるのは難しい。 姉はトーマが居て嬉しそうだったがノエルに連れられたリンディと話しているのを見て弓矢を持つ手がギリッと強くなる。 騎士さんも考えている、俺と似たような事を考えているのだろう。 …トーマに殺させたいが周りの奴らに一斉攻撃されたらトーマ以外が俺を殺す可能性がある。 「…仕方ない、今日は引き上げましょうヴィクトリア様、アルト様」 「俺はまだっ!」 「あの女を殺すのなんて簡単ですよ、また日を改めて」 そうじゃない、まだトーマに何も言ってない…そう言おうとした。 しかし騎士さんに担がれ「離せっ!」という俺の声は虚しく騎士さんは姉に近付き、魔法なのか黒いもやもやしたものが騎士さんの足元に近付き姉ごと包んだ。 最後にトーマを見ると、あからさまに目を逸らされ胸が苦しくなった。 トーマも見えなくなり黒いもやで全身包まれた。 そしてもやがなくなったら、そこは見慣れた場所だった。 シグナム家の玄関だった。 俺は泥まみれで入っていいか戸惑っていたら姉は騎士さんに掴みかかっていた。 「いいとこだったのにどうしてくれんのよ!」 「…あの場はああするしかなかったのです、さすがにあの数は死にに行くのと変わりません」 姉は悔しそうにしていた。 騎士団にバレたらきっとまた襲いかかってくる危険性があると判断され指名手配されるだろう。 もう、学校には行けない……俺の居場所がなくなってしまった。 これからどうしようか、騎士さんの思い通りにするつもりはないから隙を見て逃げ出して……でも指名手配されてるから働けないし、生活も出来ないだろう。 とりあえず大人しく家に居よう、幸いな事にあの件で姉は俺を下僕として認めただろう。 一先ずご飯は出てくるし雨風を凌げる。 でも俺は騎士さんの考えるゲームの結末にするつもりはなかった。

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