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第46話
俺は自室でちょっと困った状況になっていた。
この部屋は昔俺が使っていた部屋で当時のまま手入れもされておらず、埃とかが凄くて空気の入れ替えをして掃除をしていた。
家に戻ってきて一日目はそれで終わった。
お腹空いたなと思っていたら、騎士さんがトレイに入った夕飯を持ってきて「なにかあったらこれで呼べ」と呼び鈴を置いてさっさと行ってしまった。
昔はシェフが作った料理を食べさせてくれなかったから残飯が来ても可笑しくないと思っていたが、普通のオムライスでとりあえずホッとした。
…少し、外がどうなってるのか知りたい。
多分指名手配されてるから堂々と歩けないが、これからする行動を考えるヒントにはなりそうだ。
食器は自分で厨房に運ぼうと食べ終わった食器が乗ったトレイを持ち、ドアに向かう。
ドアノブを捻る……しかし、ガチャガチャという音しかせず引いても押してもびくともしない。
騎士さんが来た時鍵を掛ける音なんてしなかったし、この部屋に鍵はない。
古すぎて壊れたのかなと思い、呼び鈴を鳴らしてみた。
何処で聞いてるのかドアの向こうから足音が聞こえる。
「…もう食べたか」
「あ、開いてる」
騎士さんが部屋に入って来て俺からトレイを受け取り俺は再びドアノブを掴む。
鍵を掛けた仕草をしていないし、特別な開け方をしていないのは見て分かったから今度こそ出れると思った。
しかし、ドアノブはまたガチャガチャ音を立てるだけだった。
…何故、自分だけ開けられない?
戸惑い騎士さんを見ると騎士さんは俺の行動をただ見ていた。
何だかちょっとバカにしたようにため息を吐くからちょっとムッとした。
「このドア、なんで開かないの?」
「魔法が掛かっているからな、魔力を感知して開くようにしている」
それってつまり魔法が使えない俺専用の鍵って事?
なんでそんな魔法がこの部屋に?
俺が自由にウロウロするとマズイ事になるからだろう。
騎士さんが魔法を掛けたのか、父が魔法を掛けたのか分からないが部屋に閉じ込められた…それだけは分かる。
騎士さんは普通にドアを開けるから一緒に出れば出られるとドアの向こうに足を出した。
すると目に見えない強い静電気を感じてすぐに足を引っ込めた。
「…やめておけ、死にたいなら構わないが…お前はトーマ・ラグナロクに殺される使命があるから死んでもらっては困る」
「うー…」
ヒリヒリする足を押さえていたら扉は閉まった。
…そんな使命絶対変えてやる!と思うが、部屋から出られないと何も出来ない。
ベランダ逃げようと思いベランダに出た。
夕日が綺麗に染まりオレンジ色の風景が広がっていた。
下を見ると二階だからかなり地面と距離があるように感じた。
一階は天井が高いから余計だろう。
よくカーテンとかを繋いで降りたりするのがあるが、足を滑らせたら怖いから出来ない。
ベランダは諦めてベッドに寝転がる。
何もする事がない、暇だ。
ベッドの下にだらんと手を下ろす。
トーマ、何してるのかな?恋愛イベントとかしてるのかな。
トーマの恋愛イベントは最初から好感度は悪くなかった、ヒロインの幼馴染みだし。
でもお互い片思いで自分の事を好きじゃないとすれ違っていた。
でも姉にヒロインが拐われて、後悔したくないとお互い想いをぶつけ合い両思いになる。
俺の恋愛イベントなんてない、ずっと一人で孤独だ。
散々泣き、枯れたと思った涙がまた溢れてくる。
指を動かすとベッド下にカサカサしたなにかが触れた。
手に取ってみると、懐かしくてちょっと気持ちが軽くなった。
それは少し色あせた紙で、端には「あると、4さい」とサインのつもりの字がクレヨンで書かれていた。
紙には小さな俺とグランが手を繋ぎ笑っている絵だ。
確かこの絵は小さな頃いつも俺が紙にゲームの相関図を描いていてグランに何度か何を描いているのか聞かれて、バレるわけにもいかないとカモフラージュで描いた絵だった。
グランにそれをプレゼントしたらとても喜んでいた。
確か記念に何枚かコピーしていて、一枚俺にくれると言っていたやつだ。
原画はグランが額縁に入れて持っていったからない。
そういえば自分の4歳児並みの下手な絵が見たくなくてベッドの下に隠したんだっけ。
グランも騎士団に居るんだっけ、どうしているだろうか。
グランは優しいから庇ってくれてたら申し訳ない…もしかしたらもうシグナムの一族は皆敵だと思っているかもしれない。
とても正義感が強いグランだからこそ、姉が許せなかったのだから…
リカルドは学校に来ないから心配してくれてるかな、ルカは何も知らないから説明しているのかも…
ごめんね、リカルド…シグナムの家だからじゃなくて俺だからと信じてくれたのに…
皆皆、ごめんなさい。
日が落ちていき、部屋が真っ暗になる。
紙がくしゃくしゃになるほど抱き締めて瞳を閉じた。
幸せな、望んでいた夢を見たかった。
…でも、俺は夢を見なかった。
あるのは暗い暗い底の奥に沈んだ自分だ。
誰かが引き上げてくれるまで手を伸ばし続けていた。
誰か、助けて…
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