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第47話※トーマ視点

グランとリカルドから姫の事を聞いた。 どうやら二人は俺より過ごした時間が長いようだった。 友人と世話係…器が小さいようで嫌だが、正直嫉妬した。 自分の知らない姫を知っている、ムッとしながら時間は戻らないから話だけでも聞く。 二人姫は悪い人じゃない、優しくて純粋な子なんだと熱弁していた。 なんかただの友人と世話係のように感じないのだが…気のせい、だよな。 二人には「姫の優しさはもう分かっている、だから心配しなくていい」と伝えた。 二人は『…姫?』と不思議そうな顔をしていたが、その説明はするつもりがないからグランを見た。 「グラン、俺は姫の場所に行く…先に帰っててくれ、そしてノエルに伝言を頼む」 「姫って、アルト様の事ですよね…今アルト様はきっとシグナム家にいらっしゃると思います、一人では危険です」 「…俺なら大丈夫だ、姫に確認したい事があるだけだ…すぐ戻ってくる」 「……………分かりました、ならシグナム家の場所を教えます」 グランはさすがに武術だけでシグナム家に勝てる気はしない、悔しそうだが俺に任せる事にした。 俺は今すぐ姫に会いたかった、会って本人の口から全て聞きたかった。 俺が信じるのは姫の言葉だけだ。 グランにシグナム家の場所を聞き見取り図も聞いた。 グランとリカルドにリンディを守るように言い、俺はグラン達とは別方向に歩き出した。 魔力を使うと無防備になるからなるべく人に見つからないようにシグナム家に潜入する。 相手は名家だ、罠もあるかもしれないから注意してどうにか姫に会わなくてはならない。 グランは今何処の部屋に姫がいるか分からないがとりあえず昔姫が使っていた部屋の場所を教えてもらった。 二階だから外からの潜入は少し難しいから、やはり中からだろう。 カビ防止に倉庫の窓が年中開いてるらしいが、罠は当然ある。 いろいろ頭の中でシミュレーションをしていたら目の前に大きな屋敷があった。 ここが、シグナムの家か。 いろんな黒魔術を研究していて魔獣を何匹か手懐けているという噂がある、気を付けなくてはな。 中に入る前に一周回ってみる。 壁が分厚く高いから下は見えないが二階の窓は見えた。 ……ここに姫がいるかもしれないのか。 ベランダに出てくれれば見えるのに… ずっと見つめていても仕方ない、会いに行けばいい話だ。 地面に落ちていた小石を掴み、壁の向こう側に投げ入れる。 小石は引っかかる事なく向こう側に消えていった。 壁には罠はなさそうだ。 少し後ろに下がり勢いに任せて壁をよじ登る。 足を押し上げるように、爪を立てて上る。 爪が割れて痛みが走るが俺は気にせず続ける。 飛べる魔法があればいいんだろうが俺は魔力がコントロール出来ず一撃で寝てしまうからたとえあっても姫に会う前に終わるから使えない。 やっと天辺まで上り、下に何もない事を確認して中に入る。 シグナム家だし、何もないなんて不気味だ…警戒を緩めずゆっくり歩き出す。 警備の奴が一人もいない?そんな事あるのか? 倉庫がある窓に向かっていたら、後ろからなにかが落ちる物音がして振り帰る。 驚いてこちらを見る白衣の男、足元には野菜が転がっていた。 あまり戦いたくはないが仕方ない。 腰に下げていた剣を抜く、魔力は使わなくても十分だと思った。 白衣の男は炎の魔法で俺に向かって指先から火を吹いた。 ランクはそれほど高くはない、剣で塞ぎながら距離を詰めて振り上げると間一髪で避けた。 「お前、トーマ・ラグナロクだな…何しに来た…ヴィクトリア様に会いに来たのか?」 「…違う、姫…アルト・シグナムに会いに来た」 「……坊っちゃんに?」 白衣の男は驚いた顔をしていた、シグナム家の人間なら姫の事を知っているのは当たり前だ。 しかし、この男は姫の名前を出すと戸惑ったような顔になった。 それは一瞬の事ですぐに炎を片手全体に覆って一歩踏み出した。 どうやら話し合いが通じる相手ではないようだ。 早く片付けないと騒ぎに気付いた他の奴らがやってきたら厄介だ。 拳を避けて男の腹に峰打ちした。 苦しく呻く声が耳元で聞こえる。 「ぼ、ちゃんを…傷付けるやつ、は…許さっ」 最後まで言う事なく地面に倒れた。 彼も姫を大切にしている事は分かるが、俺はもう止まらない。 誰かに踏まれたら大変だから壁に寄りかからせる。 少し屋敷内が騒がしくなっていた。 …舌打ちする、姫に会えないのか。 さすがに全員相手となると俺の力を考えて不利だ。 一撃で仕留めないと無防備になるから… 姫がいるかもしれない窓を見て、今日は帰ってもっと計画してから来ようと上を見上げた。 「………姫」 「トーマ…」 ベランダに出て俺を見下ろしていた大好きで大切な彼がそこにいた。 もしかして騒ぎに気付いて出てきてくれたのだろうか。 いろいろ話したい、聞きたい…でもゆっくり出来ない。 まるで悲劇の物語だ、そこにいるのに触れられない…愛してはいけない人を愛してしまった胸の痛み。 不安げな姫に向かって笑顔を見せた、大丈夫…だから心配しなくていい。

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