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第48話
バタバタと騒々しい足音を聞いてゆっくりと目を開けた。
いつの間にか寝てしまったようで、眠たい瞼を擦る。
今は何時だろう、窓を見ると数分くらいしか経ってないように思えた。
部屋の外に出る事は出来ないからなにがあったか聞く事が出来なかった。
ドアの近くにある呼び鈴が見えた。
呼び鈴を鳴らせば騎士さんは来るだろう、しかし騎士さんが本当に俺の呼び出しに来るか分からない。
それに、騎士さんを信用していいのか分からなくなった。
俺にゲームのように死ねと言う人を……信用出来ない。
呼び鈴は諦めて、ベランダには出れるから少しでも分かるかもしれないとベランダに出た。
そして下を見て目を見開いた。
そこにはいない筈の彼が立っていた。
思わずベランダに身を乗り出す。
トーマ…トーマだ、でもなんでここに?
会いたかった嬉しさもあるが疑問だった。
トーマは何故シグナム家の裏庭にいるのだろう。
もしかして、この騒ぎはトーマが起こしたものなのだろうか。
心配してトーマを見るとトーマは笑った、それを見て大丈夫そうだとホッとした。
トーマの近くには壁に寄りかかりぐったりと座るガリュー先生がいた。
なにがあったかだいたい想像出来る、ガリュー先生もシグナム家の騎士ではないが専属医者だ…不審者だと思い戦ったのだろう。
…死んでない、よね…とガリュー先生を見つめていると「峰打ちだから大丈夫だ」とトーマは答えた。
安心したがトーマは何故か不機嫌になりどうしたのかと戸惑った。
トーマが後ろを振り返り、もう帰るのかと寂しく思う。
何時誰かが来るか分からないから長居は出来ないのは分かるが、一度トーマを見ると欲張りにもまた会いたくなってしまう。
トーマは壁を上る前に俺の方に振り返った。
「…また来るから、その時…いろいろ聞きたい事がある…いいか?」
「…………うん、待ってる」
トーマは足を思いっきり蹴り上げ姿が見えなくなった。
数分後、シグナム家の騎士が何人か裏庭に集まり気絶するガリュー先生を見つけて驚いていた。
俺は部屋に戻りベッドに横になる。
トーマは、俺にチャンスをくれると言った。
信じるチャンス…これを逃したらもうトーマは…
大丈夫、正直に話せばいい…何もやましい事なんかないんだから…
何時トーマがまた来るか分からないが瞳を閉じて明日来るかもしれないから、明日に備えて寝ようとした。
暗い部屋がノックなしで突然開けられた。
ビックリして起き上がるとそこには騎士さんらしき人物が立っていた。
部屋が暗くてよく分からないが、そんな感じがした。
寝る体制だったから眠いが慌てて入ってきたみたいだし、用事がなく来るとは思えず頑張って寝ないように寝ないように上半身を起こす。
すると突然騎士さんが動き出し俺のベッドに乗り俺を押し倒した。
驚いた俺は目を見開いて騎士さんを見る、寝ている場合ではないと眠気が吹っ飛んだ。
「……何を話していた」
「え…?」
「トーマ・ラグナロクとだ…さっき話していただろ…何を話していた」
トーマと話していたの、知っていたのか。
しかし、それなら真っ先に邪魔してきそうなものだが何故騎士さんは来なかったのか。
しかも内容も知らないとなると他の騎士同様何処にいるのか分からなかった、とか?
それなら一つ疑問がある。
トーマが俺に会いに来た事を知っていたら閉じ込められている俺の周りを探せば分かりそうなものだ。
騎士さんはその場にいなかった事を後悔しているようで眉を寄せていた。
「侵入者と聞き、そんな話ゲームにないからお前関連の怪しいイベントだろうと思い…シグナム家に入る怖いもの知らずなんて実際に強いトーマ・ラグナロクしかいないだろうと思った」
「……」
「俺がイベントを進めていた時に裏ではこんな面倒な事になっていたなんてな…反応が遅れた、くそっ」
「イベント?」
トーマはまた来ると言った、絶対に邪魔されたくないから口を閉じていたがイベントに反応した。
騎士さん、なにかイベントを進めていたのか。
それは忠実なゲームイベントだろう、なんだ?これからなにが起こるんだっけ?
時系列はめちゃくちゃだから考えないようにして、姉がリンディを殺そうとした後に起こる悪事…
まさか、姉が父に呼び出されていた事って…これだったのか?
「英雄ラグナロクの暗殺?」
「……」
その沈黙は肯定だろう。
姉と俺は父に呼び出され、英雄ラグナロクの暗殺を計画するイベントシーンがあった。
英雄ラグナロクは敵国に情報を売って金儲けをしていた。
それを知り父は利用しようと考えた。
英雄ラグナロクを戦争の引き金にする事を思い付いた。
個人的恨みもあった英雄ラグナロクを脅し敵国の情報を聞き出し、見せしめに殺し…そして敵国を挑発して戦争を起こし国王を殺してもらう…シグナム家は絶対的力を国民に見せつけこの王都を乗っ取るという内容だ。
ほとんどは両親と腕がたつ騎士がやるが、俺と姉は邪魔が入らないように英雄ラグナロクとの交渉の場を見張る事が任務だった。
そんな時、たまたま英雄ラグナロクを見かけて何も知らずに挨拶をしようと追いかけてきたリンディが巻き込まれる。
結末としては英雄ラグナロクはトーマ達により捕まり、そしてリンディを殺そうとした俺と姉は大怪我を負った。
「…あの結末はまだ俺は死なない」
「悪運が強い事にな、しかしトーマ・ラグナロクに殺されたという事実があれば何処で殺されたとかは重要ではない」
つまりあの結末が俺の死でも騎士さんには関係ないのだろう。
それなのにトーマは俺を恨むどころか危ないと分かっていながら会いに来た。
トーマの考えが理解出来ずに舌打ちした。
トーマにこの話を言えばもしかしたら作戦は失敗に終わるかもしれない。
父より先にトーマに英雄ラグナロクを逮捕させて……
そんな簡単じゃない事は分かっている。
父を逮捕とかゲームで親子不仲でもトーマには酷な事になる。
…それに多分、まだ俺を信用していないと思うしその時にそんな話をすれば余計に俺とトーマの距離は離れてしまう。
もう少し時間があれば違ったかもしれないが、騎士さんが待ってくれるとは思えない。
「それで、何を話していた?」
「………な、何も」
「お前がどう頑張ってもゲームは変わらない、トーマ・ラグナロクはお前を敵だと思っている…優しい言葉を口にして油断させて殺そうとしているだけだ」
「そんな、事…」
「トーマは自分の事を信じてくれている、トーマがそんな事しない…お前はそんなに頭がお花畑だったのか?同じキャラとして恥ずかしいな」
きゅっとシーツを握る。
トーマのあの笑みを否定したくない、ちゃんと話し合いをしてくれるトーマを信じたい。
……好きな人を信じる事はそんなにいけない事なのか?
それを言ったらまたお花畑とか言われるのかもしれないけど…
俺はまっすぐ騎士さんを見た。
思ったより距離が近くでビックリしたが、怯んではいけない。
「俺はアルト・シグナム…貴方じゃない、別人なんです」
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