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第49話
たとえ同じ名前で同じ運命だとしても考え方が違う、それだけで俺と騎士さんは別人なんだと思った。
騎士さんはそうは思ってないようで、自分がこう考えたら俺も同じ考えだろうと思っている。
だから別の行動をする俺を許せないのだろう。
自分の思い通りにならないと駄々をこねる子供のようだ。
別人だと言われ、自分を否定されたような気がして騎士さんは怒りに任せナイフを取り出し俺の顔ギリギリにナイフを振り下ろした。
今のは本当に殺されると思って驚いて騎士さんを見た。
「これから俺もここに住む、お前が二度と余計な事をしないように」
「……そんな」
「なんだ?トーマ・ラグナロクが来る予定でもあるのか?」
「…………」
トーマが来るなんて言ったら大変な事になりそうだから口を閉ざした。
騎士さんは鼻で俺を笑いベッドから降りた。
寝室から離れても俺はベッドから起き上がる事もせずずっと天井を見つめていた。
…どうしよう、トーマが来ても騎士さんがいたら会えないどころかまたトーマになにか言う可能性が高い。
俺の自由がだんだん奪われていく……次なにかしたら鎖で繋がれて自由に部屋を歩く事も出来ないかもしれない。
でもラグナロク暗殺計画に俺も参加するなら外に出れるチャンスがある…これしかない。
父はとても慎重派だ、だからちゃんとシミュレーションをしてから実行する。
その時にどうにか逃げ出しトーマに会いに行く…これしかない。
指名手配されてるだろうから慎重に行動して何とかトーマだけに会えればいいが…
これは練習なしの本番のみだ、失敗したら殺される…命を賭けた行動だ。
幸いな事に騎士さんは弱虫で泣き虫な俺が命を賭けるなんて危ない事はしないと思っている。
……でもね、貴方じゃないからゲームを変えるために何でもする性格だって分からないんだよ。
騎士さんを否定はしない、騎士さんも一人の人間だ。
ただ、アルト・シグナムというキャラに縛られすぎている……自由にさせてあげたいと思っている。
ゲームを否定すればきっと騎士さんも救われるって信じてる。
俺の名をあげてもいいから、だから騎士さんも幸せになってほしい。
そう思い、まだベッドに刺さったナイフが怖くて引き抜きベッドの近くのタンスに入れて眠りについた。
ーーー
翌朝、騎士さんが運んでくれた朝食を食べていた。
ベランダの扉の近くには騎士さんが椅子に座りナイフの手入れをしていた。
太陽の光に反射して怖かった。
トーマと会ったなら俺が唯一出れるベランダの扉からだと思いそこにいるのだろう。
なら扉にも魔法陣を掛ければいいだろと言うと「空気の入れ替えに必要だからな」と言われた。
まぁ、そうだね…とあっさり引き下がった。
あまりしつこく言いまたなにかあるのかと疑われたら大変だから合わせる。
「…騎士さんはゲームをどのくらい知っているんですか?」
話し相手がいるなら退屈はしなさそうだなとポジティブに考えて騎士さんに質問する。
ゲームのキャラでも騎士さんは他とは違う、俺と同じゲーム内容を知っている。
どのくらい知っているのか把握する必要があった。
騎士さんは俺を見てまたナイフに視線を戻した。
明らかに面倒だから話さないという態度だ。
なら別の話題を話そう、騎士さんが興味を示す話題。
「騎士さんは俺じゃないです」
「…言った筈だ、俺はアルトでお前もアルトというキャラとして生まれた存在だからトーマ・ラグナロクに殺される運命なんだ」
話してくれたが、やっぱり同じ事しか言わない。
それは分かっていた、でも…そうじゃないと分からせる必要がある。
きっと命を賭けて行動に示せば分かってくれるとは思うがそれだけじゃ騎士さんは何に命を賭けてるのか分からず終わってしまいそうだと思った。
水を飲み、朝食を食べ終わった。
騎士さんは俺から目を離すわけにはいかず誰かに後片付けを頼もうとずっと鳴らさずドアの横に放置されていた呼び鈴を取った。
騎士さん以外に誰か来るのか?
騎士さんが呼び鈴を鳴らそうとした時に俺は口を開いた。
「騎士さんは、トーマの事…好き?」
言い終わる前に俺の横を呼び鈴がかすった。
後ろを振り返るとどんな力で投げたのか、壁にめり込み変形した呼び鈴が埋まっていた。
騎士さんの方を向いたら明らかに怒ったような顔でこちらを見ていた。
心臓がドキドキする、そんなに怒るとは思わず驚いた。
騎士さんはテーブルを蹴飛ばして上に乗っていた皿などが床に落ちて割れた。
大きな音だったが全く気にせず座ってる俺を見下ろしていた。
「お前もゲームをしていたなら分かるだろ、アルト・シグナムは生涯誰も愛さず愛されず死んだ…トーマ・ラグナロクが好きか?気色の悪い事言うな、好きどころか恨んでいる…俺がアイツの立場でアイツが俺なら迷いなく殺しにいくだろう」
騎士さんの本気に震えた。
本当は否定する事は分かってて「俺はトーマが好きだから貴方とは違う」と言いたかった。
でも、言えなかった……普通じゃない怒り方をしているから…
本当にゲームのアルトの思いを引き継いでいるんだ。
トーマのせいで自分は悪役になり、トーマに殺された、だからトーマを恨んでいる。
今は違うと訴えても聞かないだろう、まだ早すぎた質問だったようだ。
「…ごめんなさい」
「二度と俺の顔で愛を口にするな」
「……」
大きい音がしたからかドアを乱暴にノックする音がした。
そして「失礼します!」という声がしてドアが開いた。
ドアを開けた体制のままガリュー先生が固まっていた。
視線を床に向けていたが、俺の顔を見て我に返り俺の傍に駆け寄る。
俺に怪我はないかと調べていた。
ガリュー先生に心配掛けてしまったなと思っていたらガリュー先生は騎士さんの方に向かった。
「なにがあったか話せ、アルト様を傷付けようとしたならお前を許さない」
「……」
ガリュー先生と騎士さんは睨み合う。
このままじゃどちらか怪我をしてしまう、自分が騎士さんを怒らせたせいで…
ガリュー先生の袖を引き大丈夫だと伝えた。
納得していない顔だが俺が望んでない事なら手を出せないと思い俺の頭を撫でて微笑んだ。
もしかして呼び鈴で来るのはガリュー先生だったのだろうか。
近くにいたっぽいからすぐこれたのかなと思った。
「今度なにかしたらシグナム様の命令とか関係なくお前をアルト様に近付けないからな」
ガリュー先生はそう言い、部屋に散乱した食器を片してから部屋を出ていった。
ずっと無言でガリュー先生が去った扉を見つめている俺を見ていた。
俺は騎士さんの視線に気付き首を傾げた。
またなにか気に障る事をしてしまっただろうかと考える。
騎士さんは俺から目線を外し、また窓の傍にある椅子に座る。
俺はやる事がなくボーッとしていたら騎士さんが口を開いた。
「助けを求めれば良かったんじゃないのか?」
「……え?」
「あの男に助けてくれと言えば俺から逃げれたかもしれないのにな」
騎士さんはバカにするように笑った。
全く考えなかったと言えば嘘になる、しかし…これは俺達の問題だ…ガリュー先生を巻き込むわけにはいかない…それだけだ。
それに、そのくらいで騎士さんが諦めるとは思えない。
その事を騎士さんに言うと「…バカだな」と言われた。
確かにバカかもしれない…でも単純な事しか考えられないからもう諦めている。
騎士さんは複雑な顔をしていた。
「もうチャンスはないかもな」
「……かもしれませんね」
「チッ……他人なんてどうでもいいだろ!?自分のためにゲームを変える奴が他人のためなら諦めるのか!?」
「……」
騎士さんは立ち上がり俺を睨む。
しかし俺を見て目を見開いた。
俺はまっすぐ騎士さんを見ていた。
その瞳に諦めのカケラもなかった。
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