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第54話
ゲームのトーマがいたところ……もしかして、訓練所?
まだあそこにいるなら、きっとトーマに会える。
ガリュー先生はワープが使えるらしく俺を運んでくれると言ってくれた。
さすがに寄宿舎まで運んでほしいとは言えず、とりあえず城下町の入り口に転送してほしいとお願いした。
トーマに会える、そう思うと緊張して深呼吸する。
肩にピッピが乗っかる…そろそろ出発の時だ。
「外は危険だ、気をつけて」
「…はい、それじゃあ…行ってきます」
ガリュー先生は微笑み俺の頭を撫でた。
足元に魔法陣が現れた……そろそろ出発の時間だ。
最後にガリュー先生に頭を下げると手を振ってくれた。
暖かな光に包まれて俺は瞳を閉じた。
そして光が治まり、耳にがやがやと賑やかな声が聞こえてゆっくりと瞼を開けた。
そこに広がっていたのは窓の景色じゃない、俺の目の前に確かに触れられる城下町の風景が広がっていた。
あまり日は経っていないのに、懐かしく感じる。
「坊っちゃん、しばらくしたらまたここに来て下さい…魔法陣を用意しています」
脳内に直接ガリュー先生の声が響いてくる。
ガリュー先生は部屋から動けないから直接迎えには来れないのだろう。
頷くと声は消えた。
早く寄宿舎に向かおう。
周りを見ても指名手配はなさそうだ、良かった…まだ自由に動ける。
とはいえ堂々と寄宿舎に行けるというわけではなく、訓練所にゲームみたいにトーマだけだといいなと思いながら歩く。
城下町を歩く俺の後ろ姿を眺める二つの影があった。
「おい、あれ…」
「あぁ…リンディ様を襲った敵だ…よく堂々と歩けるな」
「……どうする?」
「聞くまでもないだろ」
ルカは心配してるだろうか、寄り道する時間はないからルカに会いに行けないが全てが終わり落ち着いたら会いに行こう。
確かここら辺に寄宿舎があったような…
二回しか来ていないし、二回目は道を覚えるどころではなかったから記憶を思い出し歩く。
すると見覚えがある建物が見えてホッとする。
迷って時間掛からなくて良かった。
一歩踏み出したところでカチャと金属の音が聞こえて首筋に冷たいものを押し付けられた。
「……何処にいく?まさかお前またリンディ様を殺そうと考えてるんじゃないのか?」
「大人しくしていれば幽閉だけで許してやる」
幽閉……捕まえるという事か。
それは困る、トーマに会わなくてはいけないからのんびりしている暇はない。
迂闊だった、国民は指名手配されていないから俺の事を知るわけないが騎士団は俺を知っている。
見回りに城下町には騎士団が多くいるんだ、リンディを殺そうとした俺という誤解をそのまま受け止めている騎士団員がほとんどだ、こういう事も予想出来た筈だ。
一歩一歩寄宿舎から遠ざかっていく。
後悔する暇があったら行動する!
幸い騎士の武器は短剣、これなら怪我をしても浅くすみそうだ。
首筋に触れる短剣を持つ腕を掴み少し首筋から遠ざける。
まさか掴まれるとは思っていなくて驚いている騎士の足を踏み痛みで全身の力が緩みその間に脱出する。
「ご、ごめんなさい!…でも俺にはやらなくてはならない事が…」
「それは、リンディ様を殺す事か?だったら通すわけにはいかないな」
「えっ?」
目の前にいる騎士の声とは別にもう一人の声が後ろから聞こえたと思ったら、足が激しく痛み熱くなる。
叫び声を上げるともっと痛くなりそうで歯を食いしばり痛みに堪えた。
ズボンに赤いシミが広がる、足を切られた。
浅くはないだろう傷口を押さえる。
涙が溢れながら見上げる。
赤い血が付いた剣を手にして微笑む不気味な男がそこにはいた。
ピッピは驚いて俺の周りをぐるぐる回る。
ピッピだけだと魔法は使えない、ガリュー先生の魔法陣も一度使ったら少し休んでからじゃないと無理そうだ。
この場は俺自身で切り抜けなくてはならなくなる。
片足が負傷している時に寄宿舎に近付いたら他の騎士が来て終わるだろう。
でも、他の場所に逃げれても再び寄宿舎に来る事は出来ないだろう。
一か八かで訓練所まで駆け抜けるか…足の痛みを我慢すれば数分は走れると思う。
敵意を出してる人にトーマへの伝言を伝えたって聞いてくれない…これしか道はない。
壁に寄りかかりながら立ち上がる。
情けない事に足がガクガクしている。
「なんだ?やるのか?」
「…っ!!」
俺は一歩踏み出した。
ズキッと足が痛んだが気にせず駆け出す。
まさか血だらけの足で走るとは思ってなかったのか一瞬唖然としていたが、すぐに我に返り剣を振り上げる。
俺を本当に殺そうとする動きだった。
一度目は避けた、けど怪我をした足の感覚がだんだん麻痺してきて踏ん張る事に失敗した。
地面に尻餅を付いた。
でも諦めずまた立ち上がろうとする。
片足さえあれば、大丈夫!
目の前に二人の騎士が立ち震えた手を強く握る。
……もう少し、進めると思ったのに…
「根性だけはあるな…敵なんて残念だ」
「敵でも墓は作ってやるから安心しな、なにか言いたい事は?」
「……言いたい、事?」
そんなの一つだけだと笑う。
もうトーマにこの言葉が届かないのなら、信じなくていい…ただ、記憶の隅に覚えておいてほしい。
もしかしたらなにか少しでも物語は変わるかもしれない、トーマ以外に殺されるなら物語はもう変わってるんだろうけど…
いい方に未来が変わりますように…
俺はまっすぐ二人の騎士を見た。
その瞳に絶望や恐怖はなかった。
あるのは未来に向けた希望の光だけ…
「英雄ラグナロクは敵国のスパイです、早く捕まえないとそれを利用しようとする人達が戦争を起こす道具にしてしまいます…だから」
「テメェ、リンディ様だけじゃなく英雄も愚弄するのか」
やはり届かなかった、それは分かっていた事だ。
結局ピッピに見られてしまった、きっと此処に来た理由もガリュー先生なら思いつくだろう。
ごめんなさいガリュー先生、帰るって言ったのに…
剣を振り上げる騎士が見える。
トーマ……
地面から沸き上がる突風、広範囲を巻き込み吹き荒れた。
立ってられず風に飛ばされていく。
アルトも浮き地面から離れて飛んだ。
いきなりなにが起きたか分からず戸惑っていた。
優しい温もりに包まれるまでは…
しばらく突風は続いて騎士達は砂嵐で目を閉じた。
アルトの魔法かと思っていながら何も出来なかった。
S?いや違う、もっと上位の魔力を感じた。
何故今まで使わなかったのか不思議なほど強い魔法だった。
突風は止み、その場には血痕しか残されていなかった。
要注意人物だと思いながらトーマとノエルに報告だと寄宿舎に向かって歩き出した。
傍で倒れていたピッピはしばらく目を回していたが、起きてアルトを探しに飛んでいった。
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