86 / 104
第86話※ガリュー視点
俺は生まれながらにZランクという落ちこぼれのレッテルを貼られた。
将来のために一般学校ではなく魔法学園に通っていた。
そこで待っていたのは輝かしい生活なんかじゃなく、地獄だった。
Zランクはバカにされ、力で叶わないと知っているからイジメも平気でしていた。
俺は黒髪でメガネを掛けていて目立たない生徒だった。
きっと今の派手な容姿はその反動だろう。
将来は研究者になって物凄い発明をして周りを驚かせたかった。
だから勉強を頑張った。
……何故、真面目な生徒は疎まれなくてはならないのか分からなかった。
毎日のように校舎裏に呼び出されて暴力を振るわれた。
口内に広がる鉄の味が忘れられない。
元々野蛮な事とは無縁だったから俺は抵抗が出来なかった。
今日も殴られて地面に尻餅をついて空を眺めていた。
頬が痛い…バカに絡まれてばかりでバカが移ったらどうするんだと唇を噛み締める。
「だっさー、あの程度避ければいいのに」
「…あ?」
横からムカつく声がして睨む。
また弱いものイジメをするバカが来たのか、そう思った。
俺の前にいたのは同じ歳の子供だった。
俺を見て意地悪く笑っている、きっと腹ん中どす黒いんだろうなぁと眺める。
「メガネのくせにがら悪っ!」とまた笑った。
コイツ、俺をイラつかせるためだけに来たのか。
「…何の用だよ」
「用はない、ただイジメられてる不幸な奴がいるから笑いに来ただけ」
……コイツ、殺す……俺がグランに抱いた初めての感情だった。
アルト様は勘違いしている、グランはこういう奴だ。
後から知ったがコイツもZランクだという。
しかしイジメられてるところを見た事がなかった。
アイツと俺の違いが分からなかった。
そしてアイツをしばらく観察していたら分かってきた。
アイツ、グランは武術が得意だった…魔法を使わずに魔法使い達を蹴散らしていた。
俺はそれを見て武術を習った。
アイツの影響なのが悔しいが、俺はそれなりに強くなった…アイツには負けるが…
そして俺は何かとグランと対決して学園名物のライバルと言われるようになった。
誰がどう思おうが知らない、ただ俺はグランがムカついただけだ。
グランが俺をバカにしたから…そうじゃない。
アイツは一人で何でも行動して一人で解決してきた。
アイツの真似をしてきた俺とは違った。
だから気に入らないんだ……ただの逆恨みだ。
そして俺は夢だった研究者になった。
魔力を必要としない職に就いた。
しかし思ったより上手くいかず悔しい思いをした。
やっぱり俺一人の力では何も出来ないのかと何度も研究レポートを燃やした。
そんなある日の時、俺はあの人に出会った。
シグナム様だ。
一般人はまず会う事が出来ないほどの有名な人で俺は緊張でレポートを燃やす手を止めた。
誰かに会いに来た?でもここは俺専用の研究部屋だから俺以外に会いに来たとは考えられない。
悪い意味で評判なシグナム様に俺はガチガチになって直立した。
そしてシグナム様は俺に手を差し伸ばしてくれた。
誰の真似ではない、俺個人の努力を認めてくれた。
研究者になるために免許を取得していた医者としての俺を必要としてくれた。
もしシグナム家専属の医者になるなら俺が望む研究環境を与えてくれると約束してくれた。
シグナム様は普通の人から見たら残酷な人だろう。
でも、俺にとっては怖い人だがそれと同時に恩人でもあった。
グランもシグナム家にいたがそんなのは関係ない。
俺は自分の力を認められてここにいる。
なのに今、俺は何をしてる?
シグナム様を裏切ろうとしている、恩を仇で返している。
俺はここに居ていいのか?
寄宿舎の前に立って俺は眺めていた。
今シグナム家に引き返せば裏切りにならない、アルト様だって説得すればきっと帰ってきてくれる。
そこでアルト様の言葉と顔を思い出した。
俺にはっきりと帰らないと言った。
俺を助けたいとはっきりとそう言った。
あの人ならきっと出来てしまう、何だかそんな気がした。
……惚れた弱味か、恩人より好きな人を取るなんて…
俺だって誰かに言われたからではなく自分の意思で行動出来るんだ。
シグナム様を殺すのではなく罪を償わせる、アルト様のその言葉を信じよう。
シグナム様にとって裏切りでもそれが俺の恩返しだ。
ともだちにシェアしよう!