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第94話

「それなんだけど、資料庫に気になるものを見つけて」 「気になるもの?」 「真眼って書かれた本なんだけどね」 トーマは興味が惹かれた顔をしていた。 しかし真眼の本は読めない事を伝えた。 もし読めたら良かったんだけど… でも諦めたくもなかった…せっかくの手がかりだ、なにかの役に立ちたい。 考古学者みたいな人がいれば解読出来るかもしれないが、タイミングよくいるものなのだろうか。 考古学者って世界中を飛び回っているイメージだ。 「姫、俺もその本見てみたい」 「……え?」 「俺の目が真眼ならもしかしたら読めるかもしれないと思ったのだが…」 ……そうか、真眼だからなにか通じるものが本にあるのかもしれないな。 とりあえずトーマを連れていこうと思った。 トーマは俺がまた埃まみれになるのを心配していた。 そうかこの服はトーマの服だから汚せないな。 トーマに場所だけ教えてトーマは地下に向かった。 そして待つこと数分、トーマが帰ってきた。 「部屋で見た方がいいから持ってきた」 トーマが見せたのは俺が見つけた真眼の本だった。 再び部屋に戻りソファーに座る。 食べた皿を片付けてトーマは先に食堂に運びに行ってしまった。 俺はテーブルに置かれていた真眼の本を一ページ捲った、やはり分からない。 真竜の力は契約の魔法使いしか役に立てないのかな? ゼロの魔法使いは魔力の操作しか出来ないのかな。 …俺がもし契約の魔法使いならもっと役立てたのかな。 一つため息が出る。 「姫、お待たせ」 「おかえり」 俺は帰ってきたトーマの方を見てそう言った。 するとトーマは呆然と立ち尽くしていた。 どうかしたのだろうかと首を傾げる。 トーマは小さく「…なんかいいな」と言っていた。 何だか分からないが俺まで恥ずかしくなった。 気を取り直してトーマはソファーに座り本を取った。 一枚捲る。 「これは…」 「昔の文字なのかな?」 トーマはジッと文字を見ていた。 すぐにその異変に気付いた。 トーマの目が真紅色になっている? トーマが心配になり声を掛ける。 しかしトーマは俺の声が聞こえないのか、こちらを見ない。 頭が痛いのか眉を寄せている。 「と、トーマ…一回休もう!」 「あ…頭にいろいろ入ってくるっ」 本を閉じようと本を掴むと風が吹いていないのに高速でページが捲られていく。 トーマに触れて静電気のようにびりびりと手が痛くなった。 これってもしかして魔力の暴走? トーマは短く呻き魔力を暴走させないように堪えていた。 トーマほどの強い魔法使いが暴走なんてしたらこの寄宿舎がめちゃくちゃになってしまう。 俺はトーマの頬に触れてこちらを向かせる。 そしてキスをした。 いつものように、そのつもりだった。 しかし、キスをした瞬間視界が真っ白になった。 近くにいた筈のトーマの気配がなくなる。 渦に呑まれていく。 ーーー ぴちゃんぴちゃんと水滴が水に落ちる音が聞こえた。 頬に冷たいなにかが当たり、瞼を震わせながらゆっくりと目を開ける。 そして目を見開きすぐに起き上がった。 当たった感触がした頬を手で擦るが何もなかった。 …水滴が落ちたと思っていた。 確かにぴちゃんぴちゃんという音を聞いた、その筈だったのに水が何処にも見当たらない…もう音もしない。 それだけではない、この場所は真っ白な空間に何もなかった。 俺は確かトーマと部屋にいた筈なのに…これは、夢? 寝てしまったなら説明がつくがトーマが心配で早く目を覚ましたい。 とりあえずこの場にずっと居ても仕方ないから歩き出す。 風景がないから本当に前に進めているのか分からない、それでも歩き続ける。 なにかあれば良いんだけど…こう同じ場所をぐるぐるしてるように感じて気が可笑しくなりそうだ。 するとポツンと奥に黒いものが見えた。 やっと白ではない色がついたものを見つけた。 それは近付くとだんだん正体が分かってきた。 ……人影だ。 そして全身が見えたところで足を止めた。 人そのものというより人影という言葉がぴったりなほど、全身真っ黒な人だった。 誰かなんてパッと見分からないのに俺は口を開いていた。 「…………トーマ?」 人影はゆっくりとこちらを振り向いた。 赤く目が光っているのが見えて、ゾクッと体を震わせた。 …違う、トーマじゃない…でも、姿形はトーマだと思った。 トーマの姿をしたなにか…こんなに恐ろしく感じるなんてと一歩後ずさった。 腰に下げている剣を手に取ったところで恐ろしく感じた正体が殺気だと分かりその場から急いで離れた。 一度も振り返る事なく走り続けた、追ってきているのかすら分からないがピリピリと全身が殺気で鳥肌が立つ。 息も荒くなる…苦しい…なんで?夢の筈なのに… 足がもたつき地面に倒れ込んだ。 後ろを振り返ろうとしたら目の前に既にトーマの姿をしたなにかが迫ってきていた。 剣を振り上げるから体を転がし体制を整えてまた逃げる。 はぁはぁと息を切らしながら走る、そこで俺は気付いた。 ……もしかして、前に進んでないのか? 周りが同じ風景だったから分からなかった。 後ろを振り返るとトーマに似たなにかは歩いてすらいなくて、ただ止まってこちらを見ていた。 疲れるだけだと足を止めて地面に座り込む。 トーマに似たなにかはこちらに近付き剣を振り上げた。 『…何故逃げる?何故受け入れない?』 「…………え」 ふと脳内にそんな声が響き慌てて見上げた。

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