99 / 104

第99話

真竜はトーマに好みが似ているから俺の中に入ったとルカは言っていた。 ……でも、俺は違うと思う。 きっとそれは俺がシグナムの血を引いていたから、俺に救いを求め…きっと解放して欲しかったのだろうと思う。 ずっと囚われていた、だから俺は真竜を解放してあげなくてはならない。 どうやってか今は分からないが、いつか必ず……それがシグナム家の最後の罪を償うという事だろう。 それまでは、よろしくね…真竜さん。 どこか遠くでグルル…と唸るような声が聞こえた。 「……う、んんっ」 頭を撫でる優しい手つきが気持ちよくて顔が緩む。 もう少し寝ていたい、でも…そろそろ…起きなくては… 誰かの声が聞こえる、内容は分からない。 2、3…なんかどんどん増えてないか? 騒がしくなる周りに眉を寄せる。 すると短い悲鳴が聞こえたと思ったら急に静かになった。 再び頭を撫でられてなにが起きたのか目を開ける。 「…起きたか」 「トーマ…?」 優しく微笑まれて起きて最初に見たのがトーマで安心して微笑む。 ふわふわした思考の中でトーマの頬を触り確かめる。 そしてふと周りを見て呆然とした。 ……あれ?なんで皆床で寝てるの? トーマに膝枕をされていたらしく重くなかっただろうかとすぐに起き上がろうとするが肩を掴まれまた寝かされる。 トーマに頭を撫でられてまるで猫になった気分で目を閉じた。 「トーマ」 「寝てていい、疲れただろ?」 そう言われたら確かに疲れたかもしれない。 あの世界はトーマも同じものを見たのだろうか。 でもトーマの温もりは確かに感じていた。 あれはきっと、俺達の現実だ。 床から「あ、アルト様に膝枕とか…羨ましい!」とか聞こえるんだけど、グラン……大丈夫だろうか。 トーマはため息を吐き冷たく床に寝転がる人を見つめた。 「姫が寝てる傍でうるさくするからだ」 「……団長だけ、ズルい」 「というかなんでお前ら俺の部屋にいるんだ?」 瞳がより鋭くなり、皆目を逸らした。 どういう状況かよく分からないが、うとうとと瞼が重くなる。 力が抜けて再び瞳を閉じた。 ※グラン視点 アルト様には何も言われていないが部屋の外で待機していた。 なにかあったらトーマ・ラグナロクを殺そうとそう思った。 あの純真無垢で愛らしい僕の天使、それを汚す奴は神の裁きを受けるがいい! …と、アルト様のファーストキスを奪った自分の事は棚に上げてそんな事を思っていた。 アルト様は全然気付いていないんだろうなぁ…ファーストキスがまだだと今でも思っているのだろう。 そこもとても魅力的だ。 それにしても…とチラッと隣を見る。 まさか自分がヴィクトリア様といた時アルトの傍にいたのはこのガリューだなんて… アルト様から離れた時アルト様の情報をいっさい聞こえてこなかったから迂闊だった。 「…おいガリュー」 「あ?…なんだよ」 「僕が離れてる間アルト様になにかしてないだろうな」 「子供の頃の話か?………ショタコンのお前じゃあるまいし、そういう事はアルト様が物事を理解できる大人になってからだろ」 誰がショタコンだ、僕はアルト様以外に興味はない。 それに、なにが大人になってからだ!大人になってもアルト様は渡さない! 威嚇する僕にガリューは哀れんだ顔をしていた。 なんだその顔は、言っとくがガリューなんかより僕の方がアルト様の好みを熟知してアルト様の愛らしい姿を知ってるんだ! 「ゼロの魔法使いの事知らない奴は幸せでいいよな」とガリューは呟いていた。 ……ゼロ?何の話かさっぱり分からない。 すると部屋で微かに音が聞こえた。 ガリューは聞こえなかったのか平然としていた。 もしかしてアルト様がトーマ・ラグナロクに襲われ… 急いでドアを開けた、幸い鍵は掛けていなかった。 「アルトさ…まぁぁぁ!!!???」 「うるさいぞグラン、というか勝手に入ったら坊っちゃんに嫌われ………あ」 僕とグランは固まった。 トーマ・ラグナロクがアルト様に覆い被さっていた。 僕はトーマ・ラグナロクを殺そうと一歩一歩近付いた。 手を振り上げた僕を止めたのはたまたま僕の大声を聞き付けた副団長(名前は忘れた)だった。 くっ、チャラチャラしてそうで意外と力強い。 こいつもトーマ・ラグナロクの味方だろうと睨む。 「貴方もこのハレンチ男の味方ですか!?」 「ハレンチ…って、トーマ見てみろよ…寝てるだけだ」 チラッとトーマ・ラグナロクを見る。 パッと見アルト様に覆い被さっているだけだけだが、確かに二人分の寝息が聞こえる。 だとしても、だとしてもだ。 なんでこの体勢で寝るんだ!アルト様が重いだろうが! トーマ・ラグナロクの肩を掴み揺さぶる。 副団長の止める声など一切聞かない。 「うっ…」 眉を寄せたトーマ・ラグナロクはゆっくりと瞼を開ける。 起き上がり僕達を一瞬見てからまだ寝ているアルト様を抱きしめて寝ようとするから慌てて止める。 仕方なさそうに起き上がる。 アルト様と寄り添って寝ていたくせになんでお前がそういう顔をするんだ!アルト様と一緒に寝るのは当たり前だと!許せん… アルト様はまだ愛らしいお顔で眠りの世界に旅立っていて少し身じろぎする。 ソファで寝ていたからか転げ落ちそうになっていた。 すると何を思ったのかトーマ・ラグナロクがアルト様をひ、膝枕なんてしやがった! 僕のアルト様なのに!! 「ちょっと!何してるんですか!」 「おい落ち着けって、ただの膝枕だろ?」 「ただ…今貴方ただって言いましたか!?アルト様に膝枕をするのは私だけの特権だったのに!!」 「うるせぇな、ヒステリックな男は坊ちゃんに嫌われるぞ」 「誰がヒステリックな男ですか!!ガリュー表に出なさい!!」 終わりがない言い合いを続けていたら騒ぎを聞きつけた、リカルドが部屋に入ってきてどうしたんだと言っていた。 野次馬のような人も集まり、見世物ではないぞと睨むと去っていった。 わいわいがやがやと賑やかになった部屋で一人だけ頭を抱えていた。 僕は男の直感で理解した、ここにいる男達は皆アルト様に好意を抱いていると… アルト様は僕だけのアルト様だったのに!! こんな事になるならアルト様の傍を離れなければ良かったと後悔が押し寄せる。 「……お前ら、うるせぇ…アルトが起きるだろうが」 さっきまで黙っていたのに地を這うような聞いた事がないトーマ・ラグナロクの声にピタリと声を止めて固まる。 この中では一番付き合いが長い筈の副団長でさえ顔を青くしていた。 トーマ・ラグナロクがどんなに強かろうと僕はアルト様を毒牙から守る! そう思っていた、1分前の僕だった。 殴られ床に倒れ、他に騒いでいた奴もノックアウトされた。 くっ…魔力を使わなくても強いのか。 これが僕が床で倒れていた真相だ。

ともだちにシェアしよう!